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切先3
踏み込みは完全に甘かった。
日々の鍛錬不足が露骨に出る物だったが、暴虐王に切先がかすめる。
もう一つ鍛錬不足が出ただけだということにレオニードはすぐに気が付く。
設えはすべてレオニードの国のものだった模造刀はしかし、レオニードが常日頃使っていたものと少し長さが違う。
常日頃であればそんなものは、事前の確認が無かろうが何だろうが問題は無かった。
戦場で屍が握っていた剣と交換したことさえあるのだ。
そんなもので左右されるようなものでは無かった。
ッチ、とレオニードが舌打ちをする。
暴虐王が剣を振りかぶる。
「短刀使いだとは思わなかった。」
あの初撃だけで見抜いたのだろう。当たり前のことながら、それでも暴虐王の動きに迷いの様なものは一切ない。
かかとでステップを踏むようにレオニードが動く。
そのまま剣の柄ギリギリのところで暴虐王の剣を受け止める。
つばぜり合いなんてものは基本的にやるべきではない。
回避できなかった訳ではない。
けれど、剣を振りかぶった時の暴虐王の顔を見たら無理矢理にでもその剣を受け止めてみたくなってしまったのだ。
ここで受け止められなければ負ける。
打ちどころが悪ければそのままこと切れてしまうというのに、それでいいと興奮しきった頭は判断していた。
ニヤリと暴虐王が笑った気がした。
手に強烈な衝撃を感じたのは彼が笑ったのとほぼ同時だった。
これは受け止めきれるものでは無い。
体が勝手に反応して受け流す。
体の中にある本能が、危険だと叫び続けている。
それが、楽しくてたまらなかった。
暴虐王も今同じ気持ちになれているだろうか。
俺に落胆してないだろうか。
受け流した腕をひねる。
筋肉が悲鳴を上げるが今だけもてばそれでよかった。
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