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昔馴染み2
どこかで飲もうかという話になった。
目の前の男がどの程度酒をたしなんでいたかさえ覚えていない。
その程度の間柄だった。
けれど、それでも二人にとっての心配は取り除かねばならない、レオニードはそう考えた。
別に自分は正義の味方なんておキレイな存在じゃないことはよくわかっていた。
唯一の従者さえ捨ててきた男だ。
雑貨屋を出て路地裏に出たところでレオニードは相手のすねに蹴りを入れつつ、その人間の首に手刀を叩き込もうとしていた時だった。
驚いてこちらを見るかつての同僚の瞳がレオニードの目に映った。
劉祜と暴虐王がつながってしまうことだけは避けなければならない。
この男はレオニードが軍を辞めたことすら知らない様子だったが、別の人間に聞いてレオニードが王族となったと知ってしまうかもしれない。
なるべく元のつながりの無い街へ来てはいた。
交易の拠点でどんな人間がいても流れ者として怪しまれない場所を選んだ。
けれどだからと言って絶対に安全ではないことはレオニードはよく知っていた。
暴虐王であり続けた人に、自分だけはかつての知人を殺したくはないと言えるはずが無かった。
なら、一人ですべてを終わらせよう。
レオニードがまさにそう思って行動を起こした瞬間だった。
打ち込もうとした手刀はレオニードよりも太い腕につかまれて阻まれてしまった。
思わずレオニードが後ろを向くとそこには驚いた様子の劉祜がいた。
レオニードは明確な意思をもって劉祜がレオニードの行動を阻止したことに気が付いていた。
「俺が信頼できないですか?」
本当に聞きたかったことはそれでは無かったが思わず最初に聞いてしまった。
すねを蹴られて地面にひっくり返っている、かつての同僚はようやく、レオニードが殺意をもって自分に向かったことに気が付いたらしく、「は? わっ!?」と言葉にならない声を上げた後じわじわと涙を浮かべた。
その顔には何故? と書いてあるようだった。
「その姿。おそらく同郷だろう?」
劉祜は静かに言った。
「元同僚です。ここで終わらせなければどこで何を言われるかわからないでしょう?」
舌打ちののちレオニードは劉祜の手を振り払う。
「言うって、何を!? 俺何も言わないから! 神に誓ったっていい」
涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう言われて、レオニードの心は痛む。
別に人殺しが楽しいから軍隊にいた訳ではないし、そもそもそこでよく殺していたのは魔獣だ。
「やめろ。その必要はない」
「は?」
やや、怒りに満ちた声色で劉祜の言葉にレオニードは返した。
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