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昔馴染み1

レオニードが、その店を訪れたのは全くの偶然だった。 そこが武器屋だったというのであればそれは自分の業だと納得できたのかもしれない。 けれどそこは日用品だの保存食だのを置いてある雑貨店の片隅で、レオニードが手に取っていたものは瓶に入ったキレイな飴玉だった。 劉祜と二人でこの街で暮らし始めて少し経った。 彼のしたいことはおぼろげにわかってきていた頃だった。 劉祜は交易に裏から手をまわしてその力を自分のものにしたいと考えているようだった。 独占したいのか、ある程度の航路を手中に収めたいのか。 そういう話はしたことがなかった。 不思議と国の役人のいない交易ルートや商人を味方にしながら劉祜は事業を拡大しているように見えた。 レオニードは今が大切な時期だとちゃんと知っていた。 自分にできることは用心棒と貿易品の警備位だとわきまえていたけれど、その位の事はレオニードにもわかった。 だから「あれ? もしかしてレオニードか?」と聞かれて驚いた。 今その名前を名乗ったことはない。 その名を名乗っていた悪逆非道な王妃は処刑されて死んだことになっている。 この国に、レオニードの名前を知っているものがどのくらいいるのかは分からないけれどそういうことになっている。 だから、その人間が自分の名前を呼んだことに最初レオニードはひどく驚いた。 それからその顔が祖国の軍に所属していた時の顔見知りだと気が付いてまた驚いた。 レオニードはなるべく自然に見える様に愛想笑いを浮かべてそれから「ああ、久しぶりだな。」と答えた。 全体の雰囲気は変えているとはいえ、髪の色と目の色は変えることはできない。 ここで人違いですと答えて、この男が別の場所でレオニードに似た男に出会ったと言われても面倒臭い。 レオニードは緊張していたものの、頭は酷くさえていた。 こういう状態は大体誰かと戦っている時だけだ。 そして、多分これからそうなる。 レオニードは劉祜に宮殿を出る企みを話したときに一つだけ覚悟をしていた。 二人ですべてを捨てて幸せになろう。 そう思ったことは間違いじゃない。 けれど、本当に全てを捨てるなんてこと不可能だって、レオニードは大人だから知っていた。 それで、市井で暮らして実際過去が付きまとうのはレオニードの方になるということもちゃんとわかっていた。

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