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What is your name?

「名前、なんて呼べばいいですか?」 一時期よりも硬さの取れた口調でレオニードが劉祜に聞く。 この国の前の王の名が“劉祜”であった事実を知っている人間がどれだけいるか、レオニードはよく知らない。 “暴虐王”という名でしか一般には認識されていなかった王の名前だが、高官や一部の知識人、それから城に出入りしていた可能性のあるもの、そういう人達で劉祜の名前を知っている人は、それなりの数いるだろう。 暴虐王はあまり顔を見せていなかった。 御簾越しであったり冠の意匠で顔がよく見えなかった場合も多いし、髪型と服装で随分と印象は変わっている。 少なくとも今の劉祜が見た目で、暴虐王と同一視されることは無いと思われた。 世界はもう劉祜は処刑されたものとして回っている。 けれど、万が一があった。 王の名を、ずっと呼び続ける事は出来ないだろう。 レオニードには劉祜と言う名が高貴な人間にのみ使われるものなのか、そうでないのかも分からない。 「ああ、そういうことか。」 劉祜は顎を自分の手で撫でると、しばらく逡巡する。 「リュウ、と読んでくれるか?」 劉祜に近い響きの言葉は呼びやすい気がした。 君に名前を付けてもらうのもいいかもしれないと思ったけれど、折角だから自分でつけてみたよ。 劉祜は笑った。 「リュウ。」 彼の新しい名をレオニードは呼ぶ。 不思議な感触がした。 それから、何度か確認するように彼の名を声にのせる。 「何度も呼ばれると照れるな。」 劉祜がはにかんだように笑った。その顔がレオニードは好きだった。 「レオニードは名前、どうするんだ?」 「レオなんて名前、割と一般的だからなあ。 それに結婚式をしたわけでもないし、お貴族様達は誰一人俺の顔なんぞ知らないだろう。」 だから、レオでいいかな。 どうでもよさそうにレオニードが言う。 「今度、結婚式しようか。」 冗談をと思ってレオニードは劉祜の顔をまじまじとみる。 そして、その顔が真剣な表情をしていることに驚く。 「この国は同性婚は認められているから。」 知っている。だからレオニードは劉祜のもとに嫁いできたのだ。 けれど市井でどの位受け入れられているものなのかをレオニードはよく知らない。 でも、周りがどうかという問題より、何よりレオニードは劉祜と結婚式を挙げてみたかった。 近しい知り合いすら呼べないかもしれないけれど、ささやかな式を、それこそ二人きりで未来を約束するだけでもいい。 「そうだな、式挙げようか。」 レオニードが言うと劉祜は笑った。 二人きりの門出を祝えるかもしれないなんて、なんて幸せ者なのだろう。 レオニードは「嫁ぐものは短刀を持ってくるんでしたっけ? じゃあ、新郎側は何を準備するんですか?」と聞いた。 あの短刀は今もレオニードの懐で肌身離さず持っている。 しつらえは手入れをして新しいものになってしまったが、劉祜から初めてもらった宝物だ。 「新婦に贈る鏡を準備する場合が多いよ。」 二人には必要のなさそうなものだとレオニードは少しだけがっかりした。 レオニードも何かを劉祜に贈りたかったのだ。 彼が贈った唯一のものは今二人の手には無いのだから。 「じゃあ、やっぱりうちの国の風習に従って何かアクセサリーを贈りますね。」 レオニードはそう言った。 「ああ、ありがとう。それならやっぱりレオの瞳の様な色がいいね。」 劉祜は目を細めて言った。 二人の未来を考えることのできる幸せにレオニードはただ浸っていた。

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