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接触の問題でした・・?
「いたっ!なんだこれ……」
リビングの床でなにか、鋭利なものを踏んだ。
「なんだよカイラス、ちゃんと掃除してんのかい!……ん?これは…」
僕の足に攻撃してきたのは、一本のネジ。なんの変哲もない。
「カイラス!なんか落ちてたんだけど!」
廊下に立っているカイラスが、運転中の掃除機を持って立ち尽くしている。
「おーい、なにか見つけたのかい?なあ。こんなでっかいの君が見つけれないなんてめずら…し…い……カイラス!?」
カイラスは目を開けたまま、運転が止まっていた。
血の気が引いた。
五月蠅い掃除機のコードを引っこ抜いて、「カイラス、カイラス!」何度も呼ぶけど、反応しない。体に耳を近づける。機械音も聞こえない。
充電か?いや、昨日の夜コードは挿したはず……じゃあウイルス感染?
僕はふと、自分の手の中にある「ネジ」の存在に気づいた。
ネジは普通の銀色じゃなくて、肌色をしてた。
これ、カイラスのだわ。なんてこと!
重い彼を持って移動するなんて僕には出来ないし、何よりヘタに動かして取り返しのつかないことになったら?
ああ、ちゃんと機械類の勉強もしとくんだった!
僕は急いでリビングに戻って、ケータイからベータ800の会社に電話を掛ける。
「はい。こちらクロッカー社、ベータ800相談窓口でござ……」
「全く動かなくなったんです!掃除機をかけてたら、突然!」
「故障でございますね?」
「いや、リビングに一本、肌色のネジが落ちてたんだ。きっと彼のものだと思う」
「肌色のネジ、ですか……そちらのベータ800本体は、保証期間内ですか?」
「保証期間内?まだウチに来てから一ヶ月も経ってません!」
「では、そちらに本体を取りに行きますので、お電話と住所を…それと、修理には最低一週間ほどかかります。ネジの方も一応、業者が来た時に渡してください」
「彼はなおるんですか?ちゃんと、元どおりに…」
「原因がわかるまでは、なんとも言えません。保証期間内なので、新品と交換もあり得ます」
「…わかりました。とにかく、よろしくお願いします。でも、交換だけは避けて……。」
一時間後に業者の男二人が、カイラスを担いで出て行った。
一人部屋に残されて。カイラスのいない空間がこんなに寂しかったのに……よく今まで耐えてきたなぁ、と思った。
「今日、あのロボット居ないね」
同級生のリサが、僕に言った。彼女は黒人と白人のハーフで、いつも正しいことを言うヤツ。僕とは正反対で、頭が固い(いや、僕も見ようによっちゃあ、頭固いのかもだけど)。
「いつも一緒だったのに。」
「故障したんだ。ネジが一本取れて。」
「もう一週間も居ないじゃない?」
「しばらくはバスじゃなくて、ウーバーで帰ってるよ」
「いいことね。あなた細いし、女の子みたいだから」
「失礼だな…一応これでも立派な男児だよ」
「私、来週ロボット買いに行くの。クロッカー社のはやめとくわ」
「……いいヤツなんだよ」
「そうね。早くなおるといいわね」
リサは赤いリュックを右肩にかけて、颯爽と行ってしまった。
失礼だし、本当のことしか言わないけど、あれはあれでいいんだ。めんどくさい関係はあっちだって嫌いだろうし。
ウーバーの中で、カイラスはいつ戻ってくるんだろう、って考え続けて一週間。あのネジさえ、取れていなければ……
そこで僕は、ん?となにかが「引っかかった」。
カイラス故障から、僕は何冊か機械構造についての本を読んでいたけれど、その中によく出てくるネジ。あれと本の中の特殊なネジ…多分おんなじヤツだ!右に回しても左に回しても、どっち方向に回しても締まるようになってるヤツ。
でもベータ800にそのネジは使われていない。
さらに、ベータ800の関節やつなぎに使われているのは、ふわふわした柔らかい接着剤。
僕は家に帰ると、ベータ800の使用説明書を開く。その中でネジが使われていると予測できるのは、たった三十箇所。あの体の中に、五センチの長さの肌色のあのネジが入るのは、設計上不可能……
僕はそこで、「あっ!」と声をあげた。
部屋の隅に置きっぱなしにして、今度やるかと放置していた本棚。カイラスと一緒に組み立てようとしてたやつ……その中のネジが、木の本棚の色に合うように肌色っぽかった!
確認してみると……あぁ・・・やっぱりこれだ!
じゃあ、なんでカイラスは故障したんだ?あれは内部の問題だったのか?
そのとき、玄関のインターホンが鳴った。画面を確認すると、この前カイラスをうちから運び出した男性二人。その後ろに、カイラスの姿があった。
僕は玄関から飛び出て、カイラスにしがみついた。
「覚えてるかい?僕のこと覚えてるかい!」
「ええ、ミチル……」
二人の業者は固まっている。
お礼を言って家に入ると、僕はすぐさまカイラスの体を触って、確認。
「どこもおかしいところはないね?」
「はい。ご心配おかけして、申し訳ありません……」
「いや、でもよかった。交換とかにならなくて。ちゃんと君、だよね?」
「担任の先生の前で見られながらオナニー、でしたよね?」
「やっぱり君だ!」
僕はまた思いっきり抱きついた。
「ごめんね。家事が多かったかな?水はあんまり触らないほうがよかった?」
「完全防水ですので、その心配はないかと」
「充電に異常は?」
「ありませんでしたね」
僕は「?」を浮かべた。
「じゃあ今回の不調は、いったいなにが原因だったの?」
「それが…本社の方も理由はわからないそうです。まあ、機械は再起動すればなおることもありますし。接触の問題だったのではないかと、一応そういうことで収まりました」
「そうか。いいんだ。じゃあ、今日からまたよろしく」
「はい。よろしくお願いいたします」
カイラスはいつものように、溜まった洗濯物をかき集めはじめた。
でも、僕はなんとなく思ってるよ。
故障の理由、それ、本当のこと言ってない。でしょ?
接触の問題でした・・?/end
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