1 / 113

堅物教授vsドン・ファン学生 1

「先生、ねえ、羽鳥先生ってば」  二時限目の講義を終えて教室から出ようとすると、背後からやかましく話しかける声が耳をつんざいた。 「今からメシでしょ、学食行くんでしょ、お供しますよ」  白衣を翻して振り返り、銀縁のメガネを通して見ると、果たしてそこには屈託のない笑顔を向ける男が立っていた。ウチの研究室の三回生、結城大(ゆうき まさる)だ。  私が勤める神明大学といえば、数ある私立の総合大学の中でも歴史が古く、多くの優秀な人材を輩出していることで有名である。学部が多ければ学生の数もそれなりに多く、三つあるキャンパスのうち、都内の二つは文系の学部を、神奈川県川崎市にある三つめのキャンパス・川崎校舎には理系の学部を集めている。  かつてはダサくて小汚い学生であふれ返っていた──それを『男気とバンカラ』が売り、などと都合のいい表現でキャンパス紹介文に載せた──この大学も時代の流れでそれなりに進化したようで、理系学部にも女子の増加と共に見栄えのいい男子学生が増えたが、もっとも顕著な例がこの結城というヤツだ。  派手に立ち上げた、金髪に近い髪の色。広い肩幅に浅黒い肌と二重瞼の鋭い目元、キリッと整った造りに野性のエッセンスを加えた顔立ちが印象に残る男。  バンカラの進化形とあって、ブランド物を身に着けるなどのオシャレをして気取るわけではなく、ごく普通のTシャツにジーンズ姿がキマるタイプで、そのルックスの良さは群を抜き、キャンパス内でも大いに目立つ存在だった。

ともだちにシェアしよう!