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青いポインセチアの花言葉 5
結城は血を吐くように呻いた。
「先生がドジ踏んだときは言っちゃあ悪いけど嬉しかったよ、この人も失敗することあるんだって。だけどすぐ元に戻っちまうんだ。冷たい仮面をつけ直して、キミは帰りたまえって命令した。何てバカなガキだ、ウザッたいけど研究室生だし、仕方がないから相手をしてやろう。そう思ってたんだ、なあ、そうなんだろっ!」
「何を言う、どうして私が……」
「いいんだ、どうせ俺はバカなガキだよ。年齢差なんて気にしないって自分で言ってたくせに、言った本人が一番気にしていたなんてシャレにもなりゃしない」
ポツリ、ポツリ、薄墨色の曇り空からとうとう雨が降り出して、蝋人形のように立ちすくんだままの二人を濡らしていく。結城は天を仰いだ。
「今でもあの人が好きなんだろ? だからあの人が選んだ服を着て行ったんだろ? あの人の好みの格好だってことぐらい、訊かなくたってわかるよ」
「誤解だ、あれは単なる偶然だよ。車の送迎だって、こっちが頼んだわけじゃなくて……」
私の弁明を受け流すと、彼は抑揚のない声で続けた。
「どっちにしても、このままじゃまともに相手にされないから、もっと大人のふりをしようと思って、俺なりに気張ったけどダメだった。本物の大人には勝てっこない、それなら徹底的に迷惑かけてやるって」
ヤケクソだよと彼は嘲笑し、その笑い声がコンクリートの壁面を伝って痛々しいほどに響いた。
何ということだ。
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