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青いポインセチアの花言葉 4

「……何の真似だ? 怪我をしたら治療費は十万円ではすまないぞ。ヘタをすれば命もなくなる、葬儀代はもっとかかる」 「だからこの建物にしたんですよ。五階建ての研究棟はさすがにヤバイですからね。三階って、ビミョーな高さじゃないですか」  結城は例によって、しれっとした調子で答えた。薄笑いを浮かべているが、目は笑っていない。  酔っぱらって、まともな思考ができなくなった上での突飛な行動と予想していたのだが、案外シラフのようだ。  本気で飛び降りるとは思えないけれど、カッとなったらどうなるかわからない。言葉は慎重に選ばなくてはならなかった。 「まさか本当に金目当ての賭けをやるつもりじゃないんだろう? 別の理由があるとみたんだが」  じわり、と一歩近づいてみる。 「私への当てつけとか、そういう意味を含んでいると解釈してもいいかな」 「どうぞ、御自由に」 「私が私設タクシーを使ったのがそんなにいけなかったのか。だとしたら謝るよ、キミの厚意を無にして……」 「そんなんじゃねえよっ!」  いきなりの怒声に私はビクリとした。しまった、慎重に選んだはずの言葉が却って彼を刺激したのか。 「じゃあいったい……」 「いつもいつもそうやって大人の態度で、冷めた言葉使いで、先生は俺を見下ろしていた。決して俺のいる高さに下りてきてはくれない、本気で向かい合うなんてこと、絶対にしなかった。頑張って気持ちを伝えても、さり気ない仕草で、はぐらかすだけだった」

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