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第9話
「あの頃はまだ俺の腕の中にすっぽり収まるサイズだったのになぁ」
「可愛げなくなって悪かったな」
「はは、俺はお前が育つのを待ってたんだから好都合だ」
? またしても意味が分からない俺が肩に乗ったままの琥太郎の顔を覗き見ると、やはり上目遣いにこちらを見やった琥太郎とばちっと目が合った。
「待ってたって、なに?」
「いわゆる光源氏計画? 俺はあの頃清太郎が俺好みに育つように育ててた」
は!? え? 待って……それってどういう……?
「俺、あの当時は男色で女はからっきしだったんだよなぁ……母親が強烈な人でさ、女全般に嫌悪しかなくて、それでも跡継ぎだし次の後継ぎを作るのも責務みたいなもんでさ、許嫁だった清姫にも興味は欠片もなかったんだけど、家長 の言う事は絶対だったし受け入れていたんだ」
龍之介様が男色? え……そんな話、俺、知らない。
「あの頃、清姫が兄上を好きな事も知ってたし、なんなら付き合ってる事も知ってたんだけど、それならそれで二人で子供でも作ってくれたら楽でいいくらいに思ってたんだよな。托卵結構、兄上の子なら別段なんの問題もなかったし」
「はぁ!? そんな、知ってって……あの頃の俺の苦悩はっ……」
「あの頃のお前はホント可愛かったな」
けらけらとやはり能天気に琥太郎は笑う、その笑顔はあの頃の龍之介様の笑顔と変わらない。そして龍之介様は何も知らずに笑っていたのかと思いきや、全部知ってて能天気に笑ってただなんてそんな馬鹿なことがあってたまるか!
「まぁ、そんな中でも許せない事がひとつだけある訳なんだが」
「許せない……事?」
「あの時、あいつら屋敷が火事になってるのに気付きながらそのまま逃げたんだよ! 騒げば自分達が駆け落ちしようとしてたのがバレるから。あの時一言火事だと騒いでくれたらお前だってもっと早くに避難できたはずなのに!」
あれ? その言い方ではまるであの火中、すでに姉(清姫)が屋敷の中にいなかった事も知っていたみたいではないか……
「まぁ、それでも死に際の花嫁衣裳姿のお前は滅茶苦茶可愛かったし、生まれ変わったら絶対嫁にしよって勝手に心に誓ったんだけどな」
「花嫁衣裳……」
「被ってただろ? 姫が祝言で着るはずだった色打掛」
確かに俺はあの時、その辺にかかっていた姉の着物に花瓶の水をぶっかけて火の粉除けに被っていた。あれは花嫁衣裳だったのか……
「んで、その願い叶って現在お前は俺の隣にいる訳なんだが……」
またしても琥太郎がちらりとこちらを見やる。
「龍之介様は、あの時一緒にいたのが俺だって分かってたのか? 清姫じゃなく?」
「断片的な記憶だけじゃ全然だったけど、昨晩するっと思い出したな。そもそもあの火の手があがった屋敷に俺が飛び込んだのはお前が逃げ遅れてるって聞いたからなんだぞ」
「そう……なんだ?」
しばしの沈黙、俺はなんと返事を返していいのか分からない。
「んで、貴澄、俺の話を聞いての感想は?」
「俺のせいで龍之介様を死なせてしまって悪かった」
「ぶふっ、真面目か!」
「んなっ、俺は本気でっ!」
琥太郎はひとしきり腹を抱えて笑い、その後「俺はお前のそういう生真面目な所が大好きだったんだ」と、また俺の頭を撫でた。
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