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デ・ペンデント ケント 12
ちゃんと信じてやれてない発言だったと反省してる。表にしても裏稼業にしても、すごい量の仕事量を抱えているサルヴィオの補佐をしている身だ。できる言語はサルヴィオの比では無いのだが3ヶ国語出来れば、それなりになんとかなるものだと思った。
大学で軽いフランス語とスペイン語は海外逃亡のことを考えて多少は学んだが、使わないと忘れてしまうものだ。単語がいくつか理解できる程度だ。
隣国の言葉を覚えたいところだが、目の前の書類との戦いが激しくてなかなか出来そうにない。出来るならもう少し言語を増やしたいが子供の頃から触れてきたサルヴィオと比べてしまえば、なかなかに厳しいだろう。
同じヨーロッパでも言語は多岐にわたる。実際、イタリア語は必要に迫られて覚えたようなものだ。会議などど言うものはないが、話をするにしても、いちいち通訳してもらっていては時間がかかる。書類の文字についてはわからないところは教えてもらいながら、やっとスムーズに読めるようになってきたところだ。
日本語を使ってない分、そっちを忘れてしまいそうな錯覚に陥る。この環境にあって日本語を覚えていたサルヴィオはすごいとますます感心する。それが自分の為と思うと健気以外に言葉が見つからない。漢字こそほとんど読めないが、それは自分の罪だ。
同じ犯罪行為だったとしても、個人で動かない分マフィアの仕事の指示についてもノウハウは教えてやることは出来た。自分が捕まったり、死刑になることはないが、手を染めてることは事実だから、死の危険がないとは言わない。
久しぶりのお香の影響を躰が受けてるのかはわからないが、躰が熱くなるのは早かった。
この部屋で眠るようになって何ヶ月が経過しただろう?男同士で肌を重ねて、女のように抱かれ、それを今では悦んで受け入れている。
誰でもいい訳ではない。サルヴィオだから許してるだけだ。他の男に抱かれるなど考えたくもない。だからといって女を抱いても満足はしないだろう。自分の上で腰を振っている男はそんなに生易しい男ではない。
最初に釘を刺されたではないか。
『男であろうが女であろうが、その肌を許そうものならその相手を殺すからね』
間違いなく、この男は本気だ。1度同意の上ではなかったが、自分を抱いた男は本当に始末された。15年、1人を求め続けた男の気持ちは重い。お互いに同性はお互いじゃないと無理、他には目がいかないというなら、そこで落ち着くのが1番平和だ。
他人と肌を合わせたこと自体が少ない人生の中で1番肌を重ねているのはこの男だ。ずっと危ない橋を渡ってきた人生の中で、決まった相手はいなかったし、顔を覚えられるようなことも避けてきた。童貞を捨てた時ですら相手はホテルを出た途端に連れていかれてしまった。抱いた女はただ一人。夜を共にしたのも過去のサルヴィオただ一人。
彼と共にまたひとつ、ひとつと罪を重ねている人生に、自分の行先は地獄だと告げられて生きてる気がしてならないし、実際にもそうなのだろうと思う。でも、この男の視線を一身に受けることは嫌じゃない。むしろ悦んでいる。
その気はないが、この男から逃げ出そうとすれば、間違いなく殺されるだろう。自分の罪に殺されるのであれば文句はない。けれど、この甘い熱をすぐに手放したくもない。メスのように脚を開いて喘ぎ、楔のような固く大きなモノで肉壁を擦られることがこんなに気持ちいいことなのか、と思うが、この快楽を得られるのはこの男からだけだろう。
この男なしでは生きていけない躰になってしまった。
――なんて愛おしいのだろう……
「サルヴィオ……愛してる ……」
「……僕もだよ、愛してる……」
そう言って口付けられるキスは優しくない。打ち付ける腰と同じくらいに激しい。
――死がふたりを分かつまで……
いや、死んでも一緒にいたい……そう願わずにはいられないほどに堕ちていくのがわかった。
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