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クリミナル アクト♾サルヴィオ 25

いとも簡単に理性を手放したケントが久しぶりのお香の所為もあってか、酷く淫猥に乱れる。 「……あ……ぅん……いい……いい……」 熱に浮かされたように揺さぶられながら吐息を漏らす。飢えさせていた訳でもない。けれど、ここまで理性を手放すのが早いと飢えさせていたのだろう、と思ってしまう。 肌を合わせているといつものストイックさを完全に脱ぎ去るように、本能で求めてくる。そのギャップが堪らないのだが、たまにその乱れの裏にある情緒不安定さが露呈することがある。今日は後者のようだ。 「……サル、ヴィオ……あ……ンゥ……あ……」 涙で燻ぶる眸で縋るような視線を向けてきているがちょっとの刺激でその喉を反らして喘いですぐに視線が外れてしまう。キスをするために顔をこちらに向けさせれば目を細めてその口唇を求める。舌を絡めながら胸を引っかけば 「……んぅぅっ……!!……」 口唇を塞がれたまま、くぐもった声で気持ちよさそうにしながら腰が揺らす。 その姿に背筋にゾクゾクとした愉悦が走る。 ――本当にたまんない…… 勃つとか勃たないとか、何をもってそんなことを考えたのだろう。毎晩一緒に寝て、行動だって最初のうちこそ隠れて動いてたこともあったが、今ではケントは自分の右手、とまでは言わないがそれに近い状態で活躍してくれている。 公私共に離れることはほぼない。本当は裏の仕事に触れさせるつもりはなかった。国や立場が違えばケントのような一般人は一生のうちに1度も触れずに見なくても済む世界に足を踏み入れさせてしまった。本来はそこまでしてもらうつもりはなかったが、彼の人生経験は僕のそれよりもはるかに豊富だった。 長く生きてる分、犯罪歴も長く要領よく考えることが出来る、という部分にどれだけ助けられてきただろう。自分の隣にいるだけで顧客からの信用を得ることだってある。それはまだ自分が若く相手に舐められてる証拠だ。 けれどケントがいるから信用を得たからと言ってそれを卑屈に感じることは全くなく、自慢のパートナーだと胸を張れる。お互いに元々ゲイではない。少なくとも僕の方にはその素質はあったのだろうが、ケント以外には何も感じない、というより性的対象としてみるなら嫌悪感しかない。女に勃たない訳でもない。 幼き日のあの高揚感は今、腕の中で啼いている男にしか湧いてこないのだから不思議だ。この人を手に入れる為にしてきたことは決して平坦な道のりではなかった。 他人を蹴落とし、敵の暗殺だって何人手をかけたか数えたこともない。ケントの誘拐数の方はしっかり覚えているのに。行先や今現在も多少の把握はしてるが、会わせてもいいことはないだろう。もちろん、この組織にも運ばれた子供も多数いるが、大半は脱落している。 娼館に売られた者もいれば、金持ちに買い取られていった者もいる。組織で使い物にならないと判断されたらそういった処分される。 まだ、処分としては見た目はいい方だ。金持ちに買い取られて可愛がられているなら、だ。 こういったケースではイタリアではあまりいい話を聞かない。傷つけられて、レイプされて恐怖した時に出る『アドレノクロム』という子供にしか出ないアドレナリンのようなものを眼球から注射器を刺して眼球の裏から注射器で抜き取って、その生き血を飲むと不老になるとか若返るとか黒い噂だけは出回っている。都市伝説の域を出ない話ではあるが、それを信じてる人間がいる、というのだから悪趣味極まりない。 娼館で出来た子供は組織で引き取って教育対象になる。娼婦も子供がいては仕事にならないからだ。孤児にさせるくらいなら、とある程度の年齢までは娼館にいて引退した裏方の女に費用とともに普通に育てさせて、そのうちに組織への適性を調べていく。 その間に虐待したり金だけ横領して、きちんとした子育てをしなかった女は見せしめで他の引退娼婦の前で頭を撃ち抜いた。やることをやらないとどうなるかの見せしめだ。 自分がいる組織は頂点の組織だが、表向きの会社も裏側の組織も複数存在しているのだからそれなりに人は必要になる。 男娼に落ちた者は売れるうちは身を削って売るが、旬がすぎた者は次の男娼を育てる。けれど大概が短命で、次を数人育てると命を落としている。ローテーションが激しいところだ。 男に抱かれるのは負担がかかることかもしれないけれど、ケントを短命にするつもりはない。命を落とす時は共に、と思っている。ケントのために生きてきて、いない世界など考えられないし、遺して逝くことも考えられなかった。 「……ケント……愛してる……」 「……あん……あっ……はっ……ンん……」 わかってるのか、わかってないのか、苦笑していると、ケントの震えた手が頬に添えられた。 快感で喘いでるその表情の中でうっすらと微笑んだ。つられて僕まで微笑んでしまった。 「……本当にたまんない……生きるも死ぬもあなたと共にありたい……」 つい本音を吐露してしまった。

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