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デ・ペンデント ケント 11
久しぶりの香りにサルヴィオの考えてることが手に取るようにわかるのは、寝室に焚かれたお香の香りだ。ヤる気満々じゃねぇか、と。
最初の軟禁状態の頃はそれこそ躰から陥落させようと毎日のように抱き潰されていたが、従順になればなるほど、その回数は減っていったが、なくなった訳ではない。ヤらないまでもスキンシップ過多ではあった。一緒に眠ることは必須だったし。
けれど、ここまであからさまに『ヤります』的なアプローチをしてきたのは久しぶりだ。わざわざ催淫効果のあるお香を焚く、ということの意味だ。
笑ってればまだ幼さの残るその顔はニコニコしていて、今現在バスローブだけという無防備な姿でベッドルームへ来たその相手にその疑問をぶつけてみることにした。
「なぁ、おまえはこんなもんを使わないとオレにはもう勃たないってことか?」
言葉を飾る必要がないからストレートに問うが、本人は愉しそうに不吉なことを言う。
「……は?まさか。久々に際限なくヤろうかな?と思っただけだよ?ケントがわけわかんなくなるくらいにさせたいなぁ、って。」
「いつも前後不覚にさせてる遅漏はどこのどいつだっけ?たまに自分に自信がなくなるんだが?」
「自信が無くなる要素がどこにあるの?」
「イケないのはオレに原因があるんじゃないか、ってな。こっちは毎回空っぽにされてるっての」
「僕がケント相手に気持ち良くないわけがないじゃない?一緒に気持ちよくなる為に頑張ってるのに酷くない?」
ケロッと返してくる。
「……それに、僕はもうケント以外じゃ勃たないよ?どれだけ僕の愛が重たいか、まだ理解してないの?僕はケントから全てを奪って自分のモノにしたんだよ?」
「その前におまえの人生を奪ったのはオレだ……本来ならおまえは……」
言いかけた口唇を塞がれる。すぐに少し口を離して今にも触れそうな距離でサルヴィオは話を続けた。
「言ったよね?僕はここに来て不幸だとは思ってないし、どんな手段を使ってでもケントを僕のモノに出来た境遇に感謝してる。本来の両親はお互いに再婚するのに僕の存在が邪魔だった。それを理解していたし、出逢った瞬間にケントに恋をした。だからケントと一緒にいたいと思ってケントについて行った。ホテルに泊まった時だってもう少し大きかったら勃ってた。子供過ぎて無理だったけど、あの頃からずっとケントを抱きたくて仕方なかったんだから」
お香の所為だろうか、言われれば言われるほど躰が熱くなっていってる気がする。けれど、後半の言葉は6歳の子供が背負うには辛い現実であり、それを受け止めていたコイツはかなり頭の回転が早い子供だったと言えるだろう。
だからこそ、読み書きはともかく、言葉だけであれば何カ国語を操り、世界各国に部下を持つマフィアのボスまで若くして登り詰めた男だ。
その気になれば、オレ1人消すのは簡単なくらい笑顔の裏に残虐性を秘めた男。行方不明になった息子を15年経った後でも探している、と伝えれば、アジア系の子供の骨を日本で見つけさせ『行方不明直後に真田岳人は死亡している』と工作出来てしまう。政治や警察の中にも息のかかった人間がいる、ということだ。
正義と悪は表裏一体でもある。誰かが間違ってる、と言ってもそれを受け入れられなければ悪でも正義になりうるということだ。そして、岳人の遺体が出たところで、オレは立派な『殺人犯』ということになる。殺人罪の公訴時効は撤廃されている日本では間違いなく戻されたところでいい結果は待っていない。
それくらいにはこの組織の裏側までくい込んでしまっている。表でも裏でも取引に加わってる時点で、もう逃げ道などないのだ。日本でもこの国でも犯罪に手を染めてる。ならばここにいる方が身の安全の保証はされるだろう。
――裏切らない限り
考えても今更な話だ。
「考え事は終わった?」
見透かしたようにサルヴィオはケントを抱きしめる。
「そろそろ待つのも限界なんだけど?」
合わさった口唇から舌が入り込んできて苛立ったような深いキスをする。上顎を擽られ小さく声を上げる。男女変わらずそこは弱いポイントではあるのだろう。ゾクゾクっと背筋に愉悦が走る。絡めた舌を互いに追い回しては絡めて唾液を貪る。段々と躰が反応していくのがわかって腰が引けてしまう。それを逃さないと言わんばかりに腰を引き寄せバスローブ越しにお互いの昂りを確認し合う。
そのままもつれ込んだベッドではバスローブの合わせからお互いに手を入れて肌を確認するように互いに昂らせるよな手の動きを繰り返す。
それがすごく心地いい。徐々にバスローブの合せが広がり肩のあたりまで開いている。口唇を合わせながら互いの腰紐を解けば何も身につけていない無防備な姿になる。誰しも肌を合わせる時が1番無防備になるのだ。この部屋から出る時は少なくてもサルヴィオは完全防備で出ることを考えると、どれだけ無防備か、ということが分かる。
「ほら、腰を上げて?慣らさないとね……」
男同士で繋がるというのはそれなりに準備も必要となってくる。本来受け入れる機関ではない場所を押し開いて行くものだから。でも、そんな男の躰でも繋がれば快感を得ることが出来るのだから不思議だ。
本来の男女のセックスであれば必要のない手順が必要となる。躰を合わせたいのなら、面倒な手順を踏まない分、女の方が充分に手っ取り早い。本来ゲイではないサルヴィオがそんな手間暇をかけてでも抱きたいというのは本音なのだろう。
それを甘受けする自分も完全に絆されている。
「あ……そこ……やっ……」
「嫌じゃなくていいんでしょ?早く理性を手放しなよ……もっと気持ちよくなれるよ?」
「……もっと……?」
「そう、もっとね」
指が2本に増えてさらに掻き回される。
「……あ……そこ……いい……」
「気持ちいいの?」
「……きも……ち……いぃ……」
もう理性が飛びかけてる。サルヴィオの首に手を回しキスを強請る。そのキスに溺れていくまま頭の中で何かが弾けて、理性が壊れた音を聞いた気がした。
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