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クリミナル アクト ♾ サルヴィオ 24

なるほど。言葉か……腑に落ちた気がした。 着目点がやはり違うのだと痛感する。人を操るのが上手い人間、というのは相手の機微にも敏感に感じ取れるものなのだと納得した。 営業補佐という立場にありながら、どう動けば契約が取りやすくなるのかを先方の話を聞いた上でアドバイスを続けた目の前の男は、営業の成績を支え、先手を打って行動させていた実績がある。担当していた営業の大半はいい成績を収めていたが、須上という担当が外れた途端にその軸が折れてしまった。傀儡のように従ってきたツケが回ってきてしまったわけだ。自分で考えることを放棄して、指示に従ってれば問題は無い、それだけの信頼関係ができあがっていたことが窺える。今ではその会社での信頼関係以上のものを僕に発揮してくれていることはわかっている。実際に若社長の有能な秘書として見るやつは見ているし、見合い話を持ってくるやつもいれば、 「その有能な秘書さんを貸して欲しい」 なんて言葉も出てきてることも事実だ。他の人間を派遣することはあってもケントだけはダメだ。この会社の営業への指示もケントが出した指示をそれぞれの営業に伝えると、確実に成果を見せてくる。この表向きの企業ですらケントの指示は的確かつ利益を得る。 その分仕入れも大胆だった。それは裏も表もなく、それはチャレンジャー過ぎないか?というものでも売りさばける能力を持っていた。交渉だけであれば電話でも契約を取ってしまう。契約書本体はケントがアドバイスした専門の秘書と営業で行かせるものの、その手腕は大したものだと思う。 元々の人懐っこさと、人(たら)しなところは変わらないのだろう。なんとも厄介な恋人だ。 秘書に留まらず、書面で他部署についても全て把握しているものだから、この部下たちもすっかりケントがいれば全てが上手くいくと心酔してるような状況だ。だからといって全てを委ねさせるのは危険極まりないから、僕の命令で動かすタイミングやパターンなども設けている。成功しようが失敗しようがどうでもいいものに関しては、自力でさせるようにしている。ケントに頼るのはどうしても成功させなければならない場合だ。表にしても裏にしても、だ。 どんな悪条件でも折り合いをつけてしまう能力は時に利用できるが、逆の立場になれば脅威とも言える。ハイリスクハイリターンな仕事でもこの人が指示すれば、上手くいってしまうのだ。元々の才能はあったのだと思う。犯罪歴で言えばこの人の方が長いし、これまで捕まってこなかっただけの実力や先見の明があるのだ。 「ケントが優秀すぎて、他から狙われてて気が気じゃないよ……」 「何言ってんだ?ベッタリずっと一緒で離れることもない癖に……」 「ケント依存してるのが僕だけじゃなくて、周りの人間もみんなケントの仕事っぷりに心酔してるよ。影のボスはケントだ」 「おまえの為に働いてるのに何言ってんだよ。オレはオレのできることしかしてない。」 「ケントのそういうとこ、イケメンすぎ〜」 「おまえはガキに戻ってないか?そんな姿部下に見せんなよ?おまえの背負ってるものはそんなに軽くない。マフィアのボスってのはその部下全員の生活や命を支えてることを忘れるな」 「ケント以外に見せられるわけないじゃん。それくらいはわかってるよ。ただ、僕がトップに立つには早すぎた気はするけどね」 ケントは少し僕を見つめたが、そのまま書類に目を戻した。何かを言いかけてやめたという雰囲気ではない。軽くため息をついてから僕も書類に目を戻す。 「……まぁ、若さは認めるが、それだけの実力が伴わなければのし上がることも出来ねぇだろ」 と静かに言った。この世界において僕が特化してることについてはケントには知られたくない。どこかから漏れるかもしれないが、それまでは言う必要がないと思っている。 きっと知ったらケントは自己嫌悪に陥るだろう。けれど、僕自身は後悔は全くしていないしむしろ、ケントを守るためには全て必要なことだと認識してしてきたことだ。 わずか6歳にして、この人の為に生きると決めたあの時から、僕は何一つ変わっていない。 「ケントが好きすぎて一時(ひととき)も離れたくない」 そう言って抱きしめると、ふわっと柔らかい笑顔を返してくる。もう、僕は本気で骨抜きにされそうだ。この人には一生適わない。でもそれを告げるつもりもない。けれど手放すことはもっと出来ない。 「ケントだけが大好き……愛してる」 「……そういうのは仕事中に言うな……」 耳まで赤くなってるケントがそっぽを向く。そんな姿が嬉しくてしょうがない僕もどうかしている。今夜は抱き潰そう、と心に誓った。

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