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逃げたくなる気持ち 3
以前、一度決めたら実行せずにはいられない性格だと自分で言っていただけあって、神崎は俺が帰ろうとすることを許さないつもりだ。
「さっきまで買うって言ってたじゃない!」
「気が変わったんだ」
「こっちが奢るって言ってんだから素直に奢られときなさいよ!」
「だから! もういいって!」
出来るだけマサルに気づかれないように声も抑えていたつもりだったのに、うんざりしながら言った最後の言葉だけ妙に響いた気がした。
しまったと思ったときには既に遅く、自販機の奥から男の気配が動いたのがわかった。
咄嗟に俯いた自分の前に、きれいに磨かれた革靴がとまる。
顔を上げれば否応なく目があってしまった。
「あれ? アキトじゃん」
「…………」
目の前にはいつかのようにスーツを着て人の良さそうな笑顔を浮かべたマサルがいて、俺は無言のままただ立ちすくんでいた。
「え? 野村くん知り合いなの!?」
「いや、そんなんじゃ」
返答に困って表情を曇らせれば、マサルは柔らかく目を細めた。
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