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残酷さえも手放せない 1

曖昧な気持ちを感じたまま毎日を過ごしていた。 あの日の女性のことも、和臣に聞けるわけもなく。 賢に寄りかかろうとしてしまった自分にも驚いているけど。 考えれば考えるだけ気分が暗くなった。 仕事中はまだまだ覚えることも習得すべきこともたくさんあって勉強続きの毎日だから、他のことを考える余裕なんかもなく逆に過ごしやすかった。 でも、仕事が終わればおのずと考え込んでしまう。 スマホをチェックすれば相変わらず賢からのメールが入っていたし、そのつど思い出してしまうし、憂鬱でならない。 幸い仕事はたくさんある。 エコーグループの先生に学会発表に使うデータ集計を頼まれていて、その作業をしていたらいつもより遅くなった。 何も考えたくないがゆえに、最近は没頭すると時間を忘れがちだ。 勤務を終えて帰ろうと自転車にまたがり、病院を出ようとしたところで偶然、職員用玄関から出てきた和臣に出会った。 和臣は俺を見かけた瞬間、手を上げた。 「陽斗じゃん。遅くまで残ってたんだな」

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