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残酷さえも手放せない 9

そう思うと胸が少し温かくなると同時に、苦しくなっていく。 それが友情として向けられる言葉だとわかっているけど、長年かけて作った“和臣が過ごしやすい空間”に、俺は自然と存在していた。 その事実に。 必要とされていたことに。 嬉しさと恥ずかしさが混ざった感情が生まれたと同時に、勘違いしそうになる自分を律する。 目を瞑り、ゆっくり深呼吸した。 ──期待するな。 ──思い上がるな。 ──傷付くな。 そうしている間、和臣は何も話さなかった。 もう寝たのかなって思った矢先に、また和臣はゆっくりと落ち着いた声で話してきたんだ。 「こないだの河北さんだっけ? 陽斗が高校のときから知り合いだったとか知らなかった」 「なんだよ、いきなり」 「いや。一緒にいて、何でも知ってるって思ってた陽斗にも、知らない世界があったんだなって思ったんだ」 「それは和臣だって同じだろ? 俺が知らないことなんて、たくさんあるだろ?」 すると、和臣は納得するように頷くとため息に似た息をはいた。

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