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もの憂いげな純情 6
そして仕事を終えて家に帰る。
暗い部屋に電気をつければ、どっと疲労感が押し寄せた。
俺には、もう何もない。
粉々に砕け散った気持ちはもう元には戻らない。
そんなとき、スマホが着信を知らせた。喋りたい気持ちではなかったが、相手が賢だったため、文句の一つでも言ってやりたい気持ちになって電話を取った。
「……なんか用か」
『元気かな? と思って』
相変わらず飄々とした態度にイラつきながら自分の言葉がとがっていくのを感じる。
「元気なわけないだろ。お前のせいで」
『でも、いいタイミングだったんじゃないの?』
「何がだよ」
『自分を偽って隠していくのは辛かっただろう?』
「そんなのお前には関係なかった」
『関係あるよ。オレはずっと陽斗が可哀想だった。同情してたわけじゃない。自分にも同じような経験があったし、報われないのは辛い』
静かに話す賢の声はいつもよりも格段に落ち着いていて、言い返してやろうって思っていた気持ちすら飲み込まれてしまう。
『現実を突きつけたらおのずと答えがでるだろ? あいつから連絡はあるのか?』
「……あるわけないだろ」
『それが答えだろ』
いつもより冷静で静かにいい放つ賢の言葉は胸に刺さった。
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