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祐樹の帰省
香港から帰国してしばらく経って、祐樹はみやげを持って実家を訪れた。
時間が空いたのは孝弘の出発まではなるべく彼と一緒にいたかったから、孝弘を見送ったあとにしようと帰省を後回しにしたせいだ。
孝弘が北京に発ったのは2日前。
まださびしく思うほど時間が過ぎたわけでもないのに、やはり気持ちがすうすうして、金曜の夜に実家に来た。
さみしがりの子供かと自分でも思うが、孝弘が日本にいたあいだ週末はほぼべったり一緒に過ごしていたのだ。
あの北京出張の前には週末にひとりは当たり前だったはずなのに、何をしていたのかさっぱり思い出せない。
かといって、今夜は誰かと飲みに行く気にもなれないし、お気に入りのバーに顔を出して誘われたりするのも煩わしくて、みやげを口実に実家に来たのだ。
ようするに、ひとりの週末がいやだったというわけだ。
あれこれあった北京出張のあとに1度顔を見せてから、ほぼ1か月ぶりの帰省だ。
「遅くなったけど香港みやげ。よかったら使って」
居間になっている和室で、母親に長男家族分もまとめてみやげのつまった袋をわたす。その袋の大きさに母親が目を丸くした。
「え、なんなの、こんなにたくさん。めずらしいわね、どうしたの?」
驚いた声でそういわれて、出張みやげといえば帰りの空港で買った酒かマカダミアナッツチョコだったことを思い出す。
それすらも買ってこないというか、ほんの数日なら出張に行くことすら知らせないこともしばしばだった。そんな祐樹が大量のみやげを持ってきたのだから、驚かれるのも無理はなかった。
「えー、いや。…仕事じゃない海外って初めてだったから、なんとなく?」
あわててごまかして「お茶ちょうだい」とキッチンに逃げこんだ。冷蔵庫からほうじ茶を出してごくごく飲む。慣れないことはするもんじゃないなとため息をついた。
久しぶりに祐樹が来ているというので近くに住む長男一家も子連れでやってきて、夕食はとてもにぎやかだった。あまりににぎやかで、子供に不慣れな祐樹はくらくらした。
小学1年生と3年生の姉妹は孝弘が勧めたチャイナカラーのワンピースをとても気に入って、すごくかわいいと何度もありがとうを言っていた。その笑顔を見ると、やっぱり買ってきてよかったと思う。
子供好きではない祐樹だが、姪はそれなりにかわいい。これが身内びいきってやつかと無邪気によろこぶ姉妹を見ていると気持ちがなごむ。
こちらの本編は「あの日、北京の街角で」になります。
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