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第2話
夜の10時になって長男一家が帰るころ、入れ替わりに三男の達樹が帰ってきた。
3年前に結婚した達樹は夫婦ふたりで都内の賃貸マンションで暮らしているが、もうすぐ臨月の妻は体調がよくないため2か月前から実家の群馬に帰省しており、そのあいだ実家のほうが通勤に便利だからとちょくちょく帰ってきているのだ。
達樹は母親から渡されたみやげの中身をちらりと見て、そっけなく礼を言った。まあ男兄弟なんてこんなもんだろうと祐樹は気にしない。
「達樹、ごはんは?」
「もらう。かるくでいいから」
ダイニングテーブルで達樹が遅めの夕食を食べはじめ、祐樹はグラスにビールをついでやる。
「祐樹も飲めば?」
「うん」
手酌でビールをついで、形ばかり乾杯する。
ふたりで向かい合ってビールを飲むなんて、いつ以来だろう。というより達樹が結婚して家を出てから、実家で会ったことなんかあったっけ? あ、あるか、今年の正月に会ったんだった。
その時は数年ぶりに4人兄弟が全員そろってみんなでびっくりしたのだ。いまは福岡に赴任中の次兄家族も集まって、とても賑やかな正月になった。
でもその前は思い出せない。祐樹が長く海外勤務だったし、そのあいだほとんど帰国もしなかったので顔を合わせる機会がなかった。
長兄家族はすぐ近くだし、達樹も都内だからちょくちょく来るようだが、祐樹は年に1、2度顔を出す程度だ。
目の前で食事をしている達樹を見ながら、ちょっと感慨にふけってしまう。
「どうした、ぼんやりして」
「いや、達樹とふたりで家で飲むなんていつぶりかと思って」
「あー、そうだな。お前がめったに帰ってこないしな。ていうか、祐樹また海外勤務だって?」
「うん。1か月後に大連に赴任する」
「大連? それってどこ?」
「北京のさらに北のほう」
「へえ、今までと全然ちがうエリアなのか。寒そうだな」
「うん。冬はマイナス10度くらいまでいくみたい」
「まじか。やってらんねーな。部屋とか大丈夫なのか?」
「なにが?」
「なんか隙間風とかすごそうだから」
達樹のイメージする中国に、祐樹は首を横にふった。
「外国人用の家は大丈夫じゃないかな。北京もそうらしいけど、全館暖房になってるから室内は快適だって。日本の家よりぜんぜんあったかいみたい。廊下でもトイレでも暖房入ってるから」
孝弘に聞いた寒冷地の暖房事情だ。
建物内は問題ないと聞いていた。
「ああ、北海道みたいな感じか」
「たぶんね。北海道の家、行ったことないけど」
「ばか、俺もねーよ」
達樹がビールをつぎ足した。
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