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第9話
「祐樹、しばらく恋人がいなかっただろ。中国にいた間のことまではよく知らないけど、会社入ってから仕事ばっかしてそのうちバランス崩すんじゃないかって心配してた。1年前、帰国してきたとき、けっこうヤバかっただろ」
「あー、まあそうかな。…うん」
ストレス絡みの不調で帰国を希望したのは事実だから、否定できずにあいまいにうなずいた。そんな話をしたことはないのに、達樹は察していたらしい。
「結婚って形で落ち着くことができないなら、せめてだれかが傍にいて、そいつが祐樹を大事にしてくれたらいいのにと思ってた。俺が安心できるような相手だとなおいい。そう思ってたから祐樹が香港でだれかと一緒だったとわかって、うれしかったしほっとしたんだ」
だから会ってみたかったと祐樹の頭をぽんぽんした。
達樹の気持ちがうれしくて、でもそんなことを素直に言うのは恥ずかしくて祐樹は憎まれ口をたたく。
「変なの。なんか達樹、お兄ちゃんっぽい」
「おう、そうだろ。頼りにしていいぞ」
「達樹、お風呂はいるー?」
階下から母親の声が聞こえてきて、「入る」と達樹が大声で答えて立ち上がる。
「そういうわけだから、孝弘だっけ、そいつに泣かされたら言ってこい。兄ちゃんが絞めに行ってやるから」
聞くだけ聞いて満足したらしく、達樹はさっさと部屋を出て行った。達樹もたぶん滅多に言わない本音を言って照れたのだろう。それを見送って祐樹はくすくす笑った。
相変わらずちょっと強引で、でも子供のころから祐樹が本気で困っていたら、ぶつぶつ文句を言いながらもそわそわと助けに来てくれた兄のままだった。
なんだろう、けっこううれしい。
そのまま背中からベッドに倒れこむ。さっき達樹に向かって話しながら、本当に孝弘が好きだ、いますぐ会いたいと強く思った。
…ねえ、孝弘、会いたいよ。
5年も会っていなかったのだから1ヶ月なんて、本当にたいした時間じゃない。ほんのしばらくの我慢だとわかっている。
そのはずなのに、その1ヶ月がなんて長いんだろう。まだ孝弘が出発して2日しか経ってない。
たった1ヶ月の遠距離恋愛。
それもほぼ毎日、仕事で電話もメールもやりとりするはずで。遠距離(仮)恋愛というべきだろうか。過ぎてみればこれも楽しい日々だったと思うのかもしれないけれど。
懐かしい部屋のなかで祐樹はしばらくのあいだ目を閉じて、孝弘の顔を思い浮かべていた。
完
久しぶりの達樹登場ww
感想頂けるとうれしいです(*^^*)
2に続きます。
よければそちらもご覧くださいませm(__)m
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