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第13話
部屋に戻ると、12時を過ぎていた。
久しぶりに三人そろって会えたのが楽しくて、二軒目は留学時代からのなじみのバーに行って三人ともけっこう飲みすぎてしまった。
北京に赴任してきて、まだ一週間。きょうの昼間も業務連絡で電話して声は聞いた。
会いたい、な。
ため息をついてシャワーを浴びた。夜になれば湿度の低い北京はからりと涼しくなる。扇風機に当たりながら、ぼんやりと日本を思い出す。
東京で会った祐樹は、細身のスーツ姿がいかにもエリートビジネスマンという雰囲気で、ストイックな色気が漂っていた。
ジャケット姿もきりっとしていてかっこいいと思うが、ワイシャツ姿で腕まくりしている姿も好きだった。
香港のビーチで祐樹は孝弘の喉や膝が好きだと言っていたが、孝弘は祐樹の骨っぽい手首が色っぽいと思う。
あー、だめだ。
酔っぱらった頭で、祐樹のもっと色っぽい顔を思い出してしまい、あーあつまらないとベッドに倒れこむ。
祐樹の北京入りまであと三週間。
仕事をしている昼間は忙しくてあっという間に過ぎてしまうのに、部屋に帰ってひとりで寝るベッドは広くてさみしい。
祐樹が来たら。
ふわふわと酔いのまわった頭で考える。
大連とカフェと将来の話をしよう。
大丈夫。祐樹はすこし臆病なところがあるけれど、じぶんで決めたら迷わない。ちゃんと孝弘の手を取ってくれる。
香港のタイ料理屋で、祐樹がくれた言葉を思い出す。
「ほかの誰が言い寄ってきても、おれを選んで」
ほかの人に譲れないと初めてはっきり言葉にされて、胸が痛くなるくらいうれしくなった。
「おれは孝弘じゃなきゃだめなんだ。だから、ほかの誰かに心を許さないでほしい」
祐樹が見せた独占欲に、あの時、孝弘は静かに心に決めた。
お互いにどこでどんな仕事をしていても、その手は離さない。
一生、離してやらない、と孝弘は決心したのだ。
祐樹、いま何してる?
すこし照れた顔で目を伏せるときの、祐樹の震えるまつげが思いうかぶ。キスする寸前の、孝弘の好きな表情だ。
ため息をつくと、やさしい闇がふわりと孝弘を包み込む。
ひとまずは三週間後、祐樹に会ったらキスをしよう。
うんとやさしくて激しくて、祐樹がとろりと溶けてしまいそうなあまいキスをしよう。
幸せな想像を繰り広げながら、孝弘はやわらかな眠りに落ちた。
完
お付き合いいただきありがとうございました(*^^*)
まだ続きますので、ぜひ続きもご覧くださいませm(__)m
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