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(14) 男同士の甘い関係
「……以上だ。皆んな仕事にかかってくれ」
「はい!」
朝のブリーフィングが終わり、先輩配下のメンバー達は散り散りになって仕事に向かっていく。
部下の一人がすぐに先輩のデスクに駆け込んだ。
新人の大森だ。
「課長、すみません! 今日の打ち合わせの資料がまだ間に合ってないです」
「またか? まぁ、いい。代わりにサンプルとカタログを用意しておけ」
「はい!」
大森は、頭を大きく下げて備品室に走って行った。
先輩は、深い溜め息をつくと、すぐにオレに向かって手を挙げた。
「宮川主任、こっちへ来い。話がある」
「はい」
大森の代わりに資料作りだろうか?
オレは先輩のデスクの横に立った。
先輩は誰も見えないところでオレの手の甲に手を重ねた。
先輩は、小声で言った。
「和希、我慢出来ない。打ち合わせの後、応接室へ来てくれ……いいな?」
先輩の顔を見ると、今にも泣き出しそうな物欲しそうな顔。
オレも小声で答える。
「もう、先輩ったら今朝出かけにもしたじゃ無いですか?」
「バカ! お前、俺がしたくなったらするって約束しただろ?」
先輩は子供の駄々のような言い草でオレにねだってくる。
「もちろん、良いですけど……でも、家に帰ってもしますからね。今日は、新しいランジェリーが届く日なんです」
「ぶっ、お前なぁ……」
先輩は、呆れたような目でオレを見てくる。
とはいえ、最近の先輩だって満更じゃないのをオレは知っている。
この間、レザー素材のSMチックなコスチュームを着せたところ、ノリノリでメス豚堕ちしていたのだ。
本人は自覚していないのだけど……。
先輩が、いい加減にしろよな、と言い掛けた時、別のメンバーから声が掛かった。
「課長、お客様からお電話です!」
「分かった。繋げ」
先輩は、オレに「必ず来いよ!」と目配せして電話を取った。
「はい、お電話変わりました。篠原です。いつもお世話になっております……」
オレは去り際に先輩のお尻をスッと触った。
すると先輩は、電話をしながらも、頬をパッと染めて嬉しそうにオレを見た。
絶句……。
か、可愛い過ぎる……。
もう、やめてください! そんな少年のような笑顔! 今は会社ですから!
オレは胸のトキメキが顔に出ないように、クールを演じながら自席に向かった。
「さてと、仕事仕事!」
わざとらしく両手を伸ばした。
席に着くと部下の一人がオレに向かって言った。
「主任、また課長から無理難題ですか?」
オレは昔から先輩に目をかけてもらっていて、現に仕事も沢山割り当たっている。
それは、先輩に頼られているという裏返しで、嬉しくてしょうがないのだが、周りからは、「主任、ご愁傷様」という風に見えるらしい。
オレは答える。
「いや、今日はそうでも……」
そう言いかけて、言い直す。
「確かに無理難題だ」
先輩が告白したように、会社での先輩の甘えん坊っぷりはますますエスカレートしてきている。
心して当たらなければ、また先輩に遠慮させてしまいかねない。
オレは一呼吸入れて続けた。
「……だけど、オレはどんな望みだろうが課長の期待に応えるつもりだ」
その言葉を聞いていた部下達は顔を見合わせた。
そして口々に、
「おー、さすが主任!」
と、小さく手を叩いた。
オレは、大した事はないさ、と手を挙げて周りを鎮めたが、心の中では全く違う事を考えていた。
それは、注文していたランジェリーの事。
先輩に着せたら、絶対にいいだろうな。
何たって純白の下着。
今夜は初夜プレイって事になるな。うふふふ。
やばい! 高まってきた!
ふと、電話が終わった先輩と目が合った。
目を細めて微笑み合う。
互いの欲望が見え隠れした、男同士の甘々な思いが交錯するのだった。
*「続・オレと先輩の甘い関係」おわり
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