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(13) ミユさんの決意

オレは、先輩から離れ、気づかれないようにそっとリビングに向かった。 そこには、ミユさんの姿があった。 オレはコップ一杯の水をゴクっと飲み干すと、ミユさんに声を掛けた。 「で、ミユさん。見てたんでしょ?」 「……うん」 ミユさんは、少し申し訳無さそうに答えた。 オレは、ソファに向かい、ミユさんの横に座りながら質問した。 「やっぱりね……で、どうだった?」 「良かったわよ! やっぱり、あたしの見立て通り、お兄ちゃんは黒が似合っていたわね」 ミユさんは興奮気味に答えた。 「和希さんの攻めも良かったわ! ちょっとSが入っていて、お兄ちゃんのMっぽさをしっかり引き出していたというか……とにかく、お兄ちゃんの恥じらう所は最高!」 「はははは、そうだった?」 ミユさんの感想に、嬉しいやら恥ずかしいやらで、オレは照れ笑いをした。 ミユさんは続ける。 「でも、途中から何故か涙が出てきて……凄くエッチなシーンだったのに不思議だったわ。もしかしたら、和希さんのお兄ちゃんへの想いが伝染したのかも……」 オレの先輩への想いか。 なるほど、昨日今日は色々と有ったから感情が表に溢れ出ていたのかも知れない。 ミユさんは、本当に良かった、良かった、と満足そうに頷いた。 オレは、そんなミユさんに昨日からずっと考えていた事を切り出した。 「ねぇ、ミユさん。オレから提案があるんだけど」 「ん? 何?」 オレは一息に言った。 「チャレンジしてみない? 同人誌を書くのを。オレが寝てる時だったらいつでも体を貸すよ。自由に使ってくれていい」 ミユさんは驚いた顔をしたけど、すぐに笑い出した。 「もう! 何を言っているのよ! あははは、可笑しい、和希さんたら、変な冗談! あたしはBLを読めるだけでいいの。ほら、こんなに幸せなんだから」 手を振りながら、ない、ない、と言葉を連発する。 「オレ、ミユさんの力になりたいんだ」 オレは構わずに続ける。 「読んでみたい。ミユさんの新作。カエデさんの人生を変えたほどの」 オレは、ミユさんとカエデさんの会話を思い出していた。 『腐女子は生きていようが死んでいようが関係ない』 なんて力強く、素敵な言葉なのだろう。 BLに対する思いはこの世の摂理を超越するのだ。 そして、オレはずっと考えていた事がある。 ミユさんがこの世に留まる理由。 成仏出来ない理由。 それが、その言葉に込められているような気がしてならない。 ミユさんの新作を待っている人がいる。 カエデさんのように。 オレのように。 その思いがある限り、ミユさんはこの世に留まるのではないか? もしかしたら、神様もミユさんの新作を待ち望んでいるのかもしれない。 作り上げるまで連れて行ってやらないぞ、と。 オレには冗談じゃなく、本当にそう思えて仕方ない。 ミユさんの笑いはいつの間にか影を潜めていた。 「……あたしなんか」 下を向いて呟いた。 「あたしは、未練たっぷりで成仏できないただの迷子の霊よ」 「うん」 「死んでいるし、いまさら同人誌なんて……」 「うん」 「それに、ずっと絵は描いてないし……」 「うん」 今にも泣きそうな顔。 オレはハニカミながらミユさんに抱きついた。 そして、耳元で囁く。 「ミユさん、ガンバレ!」 その一言でミユさんはせきを切って泣き出した。 「うわぁぁん……」 オレはよしよしと背中をさする。 「心配は要らないよ、ミユさん。生き死にの問題じゃない。やるかやらないかの問題なんだ。さぁ、思いのまま飛び立って!」 「うっ、うう、和希さん……ありがとう」 ミユさんは泣きなら、何度も何度もありがとうを繰り返した。 思う存分泣いて気が晴れたのだろう。 しばらくして、ミユさんは、元気な声で言った。 「もう、メソメソは終わり! あたしはもう泣かない!」 「うん」 オレは大きく頷いた。 そして、ミユさんは、腰に手を当て堂々たる態度で言った。 「いい! あたしはやるからにはやる。カエデには負けないわ!」 「ふふふ、その意気! やっぱり、ミユさんはその方が生き生きしてるよ!」 オレの言葉にミユさんは、笑って言った。 「あははは、和希さん。死んでいるんだから、そこは死に死にしてるでしょ?」 オレは真顔で答えた。 「違うよ、ミユさん。生き生きだよ」 ミユさんは、ハッとしてオレの顔を見つめた。 そして、すぐにオレに抱きついた。 「……そうだった。和希さん、ごめんなさい」 オレの耳に届いたミユさんの声は、まるで泣いているかのようだった。

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