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第1話 プロローグ
「桐谷 先輩、卒業したら、北海道へ行っちゃうって、本当ですか?」
二人きりの夕暮れのバスケットボール部の部室で、俊 が桐谷に聞いてきた。
「……俊……」
「本当なんですか?」
大きな瞳に涙を浮かべ、桐谷を見つめてくる一つ下の誰よりもかわいい後輩。
彼のこんな悲しそうな顔を見たくなくて、ずっと言いだせないでいた。
「親父の仕事の都合でね。家族揃って北海道へ行くことになって。……オレも向こうの高校へ進学する」
「先輩、やだ。そんなに遠くに行っちゃうなんて、やだ……!」
「北海道なんて飛行機であっという間だよ。大きな休みには遊びにおいで。向こうはきっと自然が多くて綺麗だよ」
「やだ、行かないで。桐谷先輩……先輩……」
俊の瞳からとうとう大粒の涙が零れ落ちる。
「泣くなよ、俊。おまえに泣かれたら、オレ、どうしていいか分からくなっちゃうよ……」
「先輩……」
「きっと戻ってくるよ。高校を卒業したら、ここへ、俊の傍へ。絶対に」
そして、桐谷は俊の唇にそっと自分の唇を重ねた。
……約束のキスだった……。
*
六月X日午後一時頃、新弥刀町の会社員、安西俊夫 さん(43)の自宅キッチンで、俊夫さんと妻、絵里加 さん(43)が頭から血を流して倒れているのを訪ねてきた顔見知りの主婦が発見、警察と救急に通報した。
既に二人は死亡。その後の警察の調べにより、リビングで安西さんの長男で大学生の俊哉 さん(19)と長女で短大生の絵真 さん(18)が同じく頭から血を流し、死亡しているのが発見され、次男で中学三年生の俊くん(14)が背中から血を流した状態で発見され、意識不明の重体。
死亡が確認された四人は頭を銃で撃たれており、俊くんも背中を撃たれていることから、警察では殺人・殺人未遂事件と断定。捜査を始めている。
尚、凶器となった銃はまだ発見されていない――――。
*
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