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第2話 思い出の町

 この事件は迷宮入りになりそうだな……。  桐谷 恵介(けいすけ)は聞き込みに行ったマンションを出ながら、そう思った。  今、桐谷が追っているのは新弥刀町で起きた若い女性の殺人事件だが、目撃者も手がかりも皆無の状態だった。 「この事件は迷宮入りになりそうだなぁ」  遅めの昼食を喫茶店でとっているとき、一緒に組んでいる所轄の秋川(あきかわ)も同じことを呟いた。 「そうですね」  ここ数日間の聞き込みの徒労を思うと、疲れを覚えたが、それでも桐谷は、都心から少し離れた新弥刀町へ戻って来れたことに、深い感慨を覚えていた。  この町は桐谷にとって思い出の土地だから。  桐谷は警視庁の刑事で、二十八歳である。  すらりとスリムな八等身の長身、きたえられ体に、やや冷たげな端整な美貌を備えた青年だった。  スーツを颯爽と着こなし、刑事というよりもホスト、あるいはモデルや俳優でも通じるかもしれない。 「聞き込み行っても、女性は全員、桐谷くんに見惚れてしまいましてねぇ。私なんて、『おじさん、いたの?』なんて反応されますよ。イケメンっていうのは、どんな職業についても得ですな」  桐谷よりも二十近く年上の秋川はいつも、同僚にそんなふうにぼやいては笑っている。 「うちの所轄で殺人事件を追うなんて、めったにないからね。なんとか犯人をあげたいけど、おそらく無理だろうな」  定食についていたコーヒーをすすりながら言う秋川に、桐谷は苦笑するしかない。 「……それにしてもここらは、昔とあまり変わりませんね」  桐谷は呟き、秋の日差しが降り注ぐ窓の外に視線を投じた。 「え? 桐谷くん、この辺りに住んでたことでもあるのかい?」 「ええ。中学三年まではこの町に住んでました」

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