3 / 72
第3話 彼の行方
「へえ、じゃあもしかして、中学は新弥刀中?」
「はい。でも親父の仕事の関係で、高校は北海道でした。大学進学で東京に戻ってきましたが、都心に近かったし……この辺りに帰ってくるのは本当に久しぶりです」
話しながらも桐谷の心はひどく痛んだ。思い出の中の彼の涙が浮かんで。
『先輩、やだ。そんなに遠くへ行っちゃうなんて、やだ……!』
俊……。
物思いに沈む桐谷に気づくことなく、秋川がその愛嬌のある顔をほころばせる。
「いやあ、実はオレも新弥刀中出身なんだよ。桐谷くんの先輩ってわけだな」
「秋川さんはずっとこっちなんですか?」
「ああ。大学も実家から通えるところだったし、警察に入ってからもずっとここだよ」
「そうですか……」
あの事件が起きたころ、秋川さんは三十代の前半……もしかしたら……。
「秋川さん、十三年前の、五人家族のうち四人が銃で撃たれて死亡し、一人が重傷を負った事件って憶えてますか?」
桐谷の突然の問いかけに、秋川は一瞬きょとんとしてから、大きくうなずいた。
「勿論。一般市民が銃殺されるなんて事件が、この平和な町で起きたんだからな。当時はオレたちも不眠不休で捜査したよ。……結局、犯人はまだ見つかっていないがね」
くやしさを滲ませる。
「一人生き残った少年のことなんですが」
「ああ。当時中学三年生だった安西俊くんのことか……」
そう言ってなぜか秋川は表情を曇らせた。
「秋川さん?」
「うん。その生き残った俊くんなんだが、ここ数年、うちの署では注意人物のリストにあげられていてね」
「……どういうことですか?」
恵介は戸惑いを覚えた。
ともだちにシェアしよう!