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第4話 彼の行方②

「新弥刀町の繁華街に(みさき)っていう喫茶店があるんだけどね。警察の元幹部が経営している。オオサキっていう七十近い男性なんだが。……そこは表向きは喫茶店なんだけど、本当のところはいろいろな情報を売っている場所らしい」 「情報、ですか?」 「ああ。警察の捜査のやり方、法の抜け道、企業の秘密情報、個人情報。そう言った犯罪者にとってはありがたいものを提供しては大金を得ているわけだ」  秋川が苦虫を噛み潰したような顔で言う。 「限りなく怪しいんだが、決定的な証拠がなくて手が出せないんだ。もう引退しているとはいえ、警察組織で幹部まで行っただけあって、一筋縄ではいかないしな。……その岬に俊くんが出入りしているのが何回も目撃されてるんだ。まあ純粋に喫茶店として通っている可能性もあるわけだけど」 「……秋川さんはそうは思っていないんですね?」 「ああ。オレは、俊くんは家族を殺した犯人を突き止めるため、岬へ通っているんだと思う」 「え……?」  桐谷の心にザラリとした不安が込み上げる。 「俊くんの家族を殺し、彼にも大怪我を負わした犯人はその手口からプロだと思われる。どうして普通の市民の安西家が、そんなやつに狙われたのかは当時から謎だった。でも警察はその謎を解くことも、犯人を捕まえることも、できていない。だから俊くんは自分で犯人を捜し出そうとしているんじゃないかな。そう言う意味では、岬はうってつけの場所だからな」 「…………」  桐谷は形のいい唇を噛みしめたまま言葉を失くしていた。  秋川が桐谷の様子を見て、不思議そうに聞いてくる。 「桐谷くんは、どうしてそんなに俊くんのことを気にしてるんだ?」 「俊は中学時代のバスケ部の後輩なんです」 「へえっ……」 「一つ下の後輩で、とてもかわいくて……」  桐谷の視線が再び窓の外へと移る。変化の激しい今の時代、この新弥刀町は取り残されたように昔の面影を色濃く残している。  その風景が空気の匂いが、否応なしに桐谷の心を中学時代へと戻していく――。

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