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第5話 思い出の中の彼
『桐谷先輩、今日もまたフリースローの練習付き合ってくれますか?』
いつも輝くような笑顔で桐谷を慕ってきた俊。彼は桐谷が一番大切にしていた後輩だった。
愛くるしい顔立ちをし、素直でがんばり屋の性格の俊は、誰からも好かれていた。
そんな俊が特に懐いていたのは、桐谷だった。
『桐谷先輩、持久力って、どうすればつくんですか? 僕、どうしても試合の途中でばててしまうんです』
『先輩っ、僕、初めてシュート決めましたっ』
『先輩……、桐谷先輩……、せんぱい……』
くりくりした瞳で表情豊かに桐谷を慕ってくる俊は、掛け値なしにかわいかった。
部活のあとはよく二人きりで寄り道をしたり、休日には遊びに行ったり。
自分が彼に持つ感情がいったいどういう種類のものか、あの頃は深くは考えもしないで、ただ、ただ、俊がかわいくてたまらなかった。
だから北海道へ行くことになったこともなかなか言い出せなかった。彼の悲しむ顔を見たくなくて……。
冬の夕暮れのバスケットボール部の部室で、彼は大きな瞳から涙をポロポロ零して言った。
『先輩、やだ、行っちゃ、やだ……』
胸が痛んだ。離れたくなくて。離したくなくて。
『きっとここに、俊の傍に帰ってくるから』
桐谷はそう言って俊の柔らかな唇にそっとキスをした。
約束のキスを。
なのに……。
その半年後、俊の一家は惨劇に見舞われてしまった――。
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