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第6話 彼の写真

 その夜の会議で、新弥刀町の女性の殺人事件は捜査本部が縮小されることが決まり、桐谷は事件の担当から外れて、警視庁へ戻ることになった。  聞き込みで疲れた足で、駐車場へ向かって歩いていると、秋川に呼び止められた。 「桐谷くん、これ」  そう言って秋川は一枚の封筒を桐谷に差し出した。 「何回か岬には内偵をしていてね。そのときに撮った写真の中に、偶然俊くんが写りこんだものがあったのを思い出して……」 「わざわざ探してくれたんですか? ありがとうございます……!」  どこまでも気の良い先輩刑事に、桐谷は感謝の気持ちでいっぱいになった。 「いやいや。……今度、ゆっくり飲みに行こうや」 「ええ。是非。本当にありがとうございました」  桐谷は秋川の姿が見えなくなるまで、深くお辞儀を続けた。  手渡された封筒を持つ手が震える。  すぐにでもその場で封筒を開けたい気持ちを抑えて、桐谷は駐車場へと急いだ。  一人になってから、写真を見たかったのだ。  自分のブルーグレイの車に乗り込むと、震える手で封筒を開け、写真を取り出す。  桐谷の目に、すぐに俊の姿が飛び込んできた。  俊……!  写真の中の俊は、桐谷が知っている面立ちをそのまま大人っぽくした、かなりの美青年に成長していた。  小さな写真でもその美貌ははっきりと分かる。  大きな黒目がちの瞳が印象的な小顔に艶やかな髪。中性的、と言った言葉がぴったりくる美しい容姿。  でも、雰囲気はかなり変わってしまっていた。  元気いっぱいの無邪気さは消え去り、冷たく、他人を寄せ付けないオーラが写真からも伝わってくる。  俊……。  写真の中の俊の姿は、桐谷に深い悲しさを覚えさせた。

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