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第7話 一瞬の邂逅
桐谷は写真を封筒へ戻すと、スーツの胸ポケットへ入れ、車をスタートさせた。
今夜は少し回り道をして、思い出の中学校の前を通って帰るつもりだった。
夜の町を車で走ると、五分もしないうちに、左前方に新弥刀中学校が見えてくる。
十年一昔と言うが、車の窓越しに見る中学校の校舎は、そんな時の流れをまるで感じさせない。
桐谷は刹那、自分がタイムスリップしてしまったかのような錯覚に捕われた。
日の光の下で見れば、あるいはそれなりの変化を感じたのかもしれないが、夜の暗闇を背景にした学校は、月日の経過をも闇の中へと溶け込ませていた。
桐谷は息苦しいほどの切なさに、軽いめまいを覚えながら、中学校の横を走り抜けた。
またしばらく車を走らせると、今度は右側に小さな公園が見えてくる。
部活が終わったあと、よく俊と二人で寄り道をした公園だった。
……あの公園で俊と二人、コンビニで買ったパンやお菓子を食べながら、他愛のない話をしたっけ……。そう、ちょうどあのブランコの横にあるベンチに座って……。
桐谷の車のヘッドライトが思い出のベンチを照らし出したそのとき、
え?
光がベンチに座る人影を浮かびあがらせた。
……俊?
それは一瞬のことだった。
桐谷は目を凝らしてよく見ようとしたが、後続車にけたたましくクラクションを鳴らされ、それは叶わなかった。
あっという間にベンチも公園も車窓の後ろへと消えてしまう。
でも、あれは確かに、俊だ……。
憂いに満ちた横顔に長めの髪が風に流され、うつむき加減で座っていた。
すぐにでもUターンして駆け付けたかったが、道は一方通行のうえ狭い。あきらめるしかなかった。
俊があの公園にいてもなんの不思議もない。秋川の話によれば、彼はこの町へ帰ってきているのだから。
俊の住んでいるところも調べればすぐに分かるはずだ。
――この夜、十三年の時を経て、桐谷の人生と俊の人生が、再び交わり始めたのだった……。
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