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第72話 最愛の恋人

「行ってらっしゃい、先輩」 「行ってきます」  微笑んで見送ってくれる俊の唇に、ちゅっとキスをしてから、桐谷は部屋を出る。  桐谷と俊、二人が一緒に暮らすようになってから三カ月近くが経っていた。  そのあいだに、十三年前の事件の捜査は大きな進展を見せていた。  年が新しくなってしばらくしてから、俊の家族の殺害を依頼した犯人二人が逮捕された。  実行犯の逮捕にまでこぎつけられるかどうかは、桐谷が担当の刑事に聞いたところによると、五分五分らしい。  アンダーグラウンドの世界に棲むプロは、皮肉にも何重ものセキュリティに守られているという。    休みの日に二人で俊の家族のお墓参りに行き、捜査の進展を報告した。  俊はなにかが吹っ切れたような表情で、 「過去の辛いことを思い出すのはやめにしました。今、僕には桐谷先輩という家族がいるから」  そう言ってとても綺麗に笑った。  眩しいほどの愛らしい笑顔。  ……この笑顔はオレが一生守ってみせます。  桐谷は天国にいる俊の家族に、そう誓った。  ここ最近、俊は料理を作る楽しさを覚えたみたいで、桐谷が事件で帰れないとき以外は、夕食を作って待っていてくれるようになった。 「先輩ほどうまくは作れないけど……」  はにかんだように言うが、俊の料理の腕はなかなかのもので、なにを作っても、とてもおいしい。  来年には調理師の専門学校へ通う予定らしい。 「先輩の体のために、栄養のこととか勉強したいんだ」  そんなかわいらしいことを言ってくれ、取り寄せた資料を見比べては、どこの学校へ通うかを考え中だ。  ゆっくりと自由に歩いて行けばいい。いつもオレは傍にいるから。  すべての苦しみや悲しみから、俊を守る盾にオレがなってあげたい……、それが桐谷の一番の願いである。  桐谷にとって俊は、中学時代の後輩であり、今はなによりも大切な恋人だから。  安西俊の人生は、家族を失った十四歳のまま止まっていたのだろう。  十三年のときを経て、それがようやく動き出した。  桐谷恵介という愛する人との再会を果たして……。  ――復讐鬼の彼は、もうどこにもいない。

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