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周焔編(氷川編)17

「俺らの名前にピッタリだと言ったんだ」 「名前……ですか?」 「ああ。お前は雪吹冰だから雪のような白いケーキ。俺は焔で赤いケーキってことだ」 「……! ほんとだ」  そういえば思い出した。周の名は焔だ。 「お前は覚えてねえかも知れないが、初めて俺らが会った時、お前さんは俺にこう言ったんだぜ。じゃあ熱いんだね――ってな」 「熱い……ですか?」 「俺が焔の意味は”炎”だって説明したからな。お前はまだガキだったが、でっけえ目をクリクリさせて一生懸命俺を見つめながらそう言った。可愛かったぜ」  ニッと口角を上げて笑う周の笑顔に、思わず頬が熱を持つ。何気ない仕草だが、あまりにも整ったこの顔立ちでスマートにそう言われて、急にドキッとさせられてしまったからだ。 「俺、そんなこと言ったんだ……」 「まあ、ガキだったからな。覚えてなくて当然だ」 「すみません……。でも、その――周さんと会った時のことは覚えています。真っ黒な服を着てて、真っ黒な髪で――すごく印象に残ってます。だから俺、周さんのこと”漆黒の人”って呼んでたんです」 「なんだ、それは。ガキのくせに、またえらく難しい言葉を知ってたじゃねえか」  周は面白そうに興味を示す。 「いえ、漆黒っていうのは黄のじいちゃんが後から教えてくれたんです。周さんたちが帰った後、俺が真っ黒な服を着たお兄ちゃんって呼んでたら、まさに漆黒が似合うお人だって言って」 「ほう? 黄のじいさんがそんなことをな」 「じいちゃんは周さんのことをよく知っているようでしたから」  つまり、マフィアのファミリーだという素性のことだ。黄老人もまた裏社会に顔の利く人物だった為、ファミリーのことは多少なりと見知っていたのだろう。あの時も若かった周を見て、一目でその正体を理解したのだろう。 「それでお前はその”漆黒の”俺に会いに来てくれたってわけだな」 「あ、はい……。周さんにはちゃんと会って御礼を言いたいと思って」  そんな話をしていると、注文したコーヒーとケーキが運ばれてきた。サンプルで見たケーキが大きな皿に乗せられていて、周囲には粉雪のようなデコレーションまで添えられている。周の方にも同じようにデコレートされており、真っ赤なミニバラまでが添えられていた。 「すげえ……。綺麗で食べるの勿体ないくらいだ」  冰がケーキをマジマジと見つめながら溜め息を漏らしている。周はそんな様子も飽きないといった顔付きで、笑いながら皿を勧めてよこした。 「ほら、食え。半分食ったら交換だ」  銀色のフォークでベリーのムースをすくいながら口元へと運ぶ。ダークな漆黒のスーツをビシッと決めた男前とはよくよくミスマッチな印象だが、それもまたギャップルールといおうか。周がやると目を引かれる。ただケーキを食べているだけなのに、何とも粋でサマになっているのだ。

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