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周焔編(氷川編)25

 そうして周と二人で朝食を取りながら、冰は昨夜李に聞いたことを告げるべきかどうか迷っていた。李自身からも『私から申し上げてよいかどうか――』と言われていたこともあり、自分の口から告げるのがいいのか、それともいずれ周から直接聞いた際に礼を言う方がいいのかと思ったからだ。だが、周がこうして部屋まで用意していてくれたことを思えば、やはりその気持ちを嬉しく思ったことを伝えたいとも思う。  何か言いたげにソワソワとしている様子が気になったのか、目ざとい周は訝しげに見つめてきた。 「どうした?」 「え……!?」 「何か不安なことでもあるなら遠慮なく言え」 「いえ……そういうわけじゃ」 「なんか言いたさそうなツラしてるぜ?」 「そ、そうですか?」  冰は咄嗟にごまかしたが、周のようなデキる大人の男からすれば、自身の挙動不審な様子などごまかしようがないのかも知れない。隠すことで別の心配を掛けるのも本意ではない。当たり障りのない礼の言葉くらいならと、冰は思い切って切り出すことにした。 「あの、周さん。いろいろとありがとうございます」 「何だ、改まって」 「だってこんなにすごい部屋に住まわせてもらって、それに仕事まで与えてもらって……。俺、なんて言っていいか。どうお礼を言っても足りない……」 「何だ、そんなことか」  言葉は素っ気ないが、その表情は嬉しそうだ。クッと口角が上がっていて、瞳もやさしげに細められている。 「あの――周さんはどうしてこんなに俺に良くしてくださるんですか?」  それは率直な疑問だった。別段、李からいろいろと聞かなかったにしても、その理由を不思議に思っていたことは事実だからだ。  周は穏やかな表情で口を開いた。 「初めてお前に出会った頃、黄のじいさんは既に結構な高齢だったからな。もしもお前がまだガキの内にじいさんが亡くなったりしたら――俺がお前を引き取って育てるつもりだった」  周の口からは昨夜李から聞いたのと同じことが語られた。 「周さんが……俺を……? けど、どうして……ですか?」 「お前は知らんだろうが、お前の両親が亡くなったのは俺たちファミリー下に属していた者たちの抗争が原因だった。俺にはお前に対して責任がある」 「それは……でも、周さんが直接抗争を起こしたわけじゃないんですし……」 「まあ、それもお前のことを気に掛ける原因のひとつではあったんだが――。お前は俺が妾腹だってことを黄のじいさんから聞いてねえか?」 「あ……! はい、聞いてます」  確かに黄老人はそう言っていた。幼い時に冰をチンピラ連中から助けて出してくれた漆黒の男は香港マフィアの頭領の次男で、妾の子供でもあったと。それで周はファミリーの後継の座を兄に任せて日本の地で起業したのだとも聞いていた。

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