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周焔編(氷川編)24

 それも当然である。真田にとって冰は、周と同等に仕える主であるという認識でいたからだ。そんな冰が何かできることがあれば手伝いたいというのだから驚きもするわけだった。 「とんでもございません! 雪吹様にお仕えするのが私共の役目です。お食事のお時間までまだ一時間ほどございますので、お部屋でお寛ぎいただければと存じます」  真田は恐縮しつつも、「お気持ちは本当に有り難く恐縮に存じます」と付け加えた。 「そうだ、温かいお茶でもお持ち致しましょう」  そう言って、にっこりと微笑んだ。――と、その時だ。 「えらく早いことだな」  現れたのは周だ。彼もまたラフな普段着といった服装で、髪もまだセットしていないのか昨日見た時とは違って無造作に前髪を下ろしているといった出で立ちだ。そんな彼を目にした瞬間、冰は思わずドキりと心臓が鳴るような心持ちにさせられてしまった。きちんとしたスーツ姿で隙のなくキメた周も格好良かったが、構えずにラフな彼もまた別の意味での色香を放つ男前に思えたからだ。 「周さん……!」 「昨夜はゆっくりやすめたか?」 「あ、はい! もちろんです! すごいでっかいベッドで……風呂もびっくりするくらい広くて夢のようでした」 「そうか、それは良かった」  淡い笑みと共にそう言った周の笑顔は穏やかで、大らかなやさしさが感じられる。彼の顔を見ているだけで不思議な安堵感を覚えるようでもあった。 「坊ちゃま、おはようございます。ただいまお茶をお持ち致しますゆえ、お二方ともどうぞお掛けになってください」 「ああ、頼む」  真田が下がっていくと、周は冰に自分の対面の席を勧めながらゆったりと腰掛けた。 「真田を手伝おうと早く起きてきたってわけか?」  どうやら周には先程の真田とのやり取りが聞こえていたらしい。 「はい。俺にも何か手伝えることがあればと思って。……って、よく考えたら逆に邪魔になっちまいますよね」  タジタジとする冰に、周はそこはかとなくやさしい視線で彼を見つめながら言った。 「冰――お前ってやつは……。ほんとに黄のじいさんが愛情掛けて育てたってのが目に見えるようだぜ」 「え……?」 「やさしい心根の――いい男に育ったって言ったんだ」 「俺が……ですか? そんな……こと」 「まあ気持ちだけで充分だ。お前には社の方でがんばってもらえばいいんだ。食事の支度や掃除なんぞは真田に任せておけばいい。だが、真田もお前さんの気持ちを聞いて嬉しかったろうぜ」  周の言葉に応えるかのように、ちょうど茶を運んできた真田もうなずいた。 「坊ちゃまのおっしゃる通りでございます。雪吹様のご厚情がこの真田には心に沁みました。本当にありがとうございます」  真田本人にまでそう微笑まれて、冰は気恥ずかしげに笑ったのだった。  

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