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周焔編(氷川編)34

 真田だけでなく李も劉も気に掛けてくれていたようだし、これ以上皆を煩わせてはいけない――冰はしっかりしなければと自分に言い聞かせていた。  そもそもこれは自分自身の我が侭なのだ。周やまわりの皆にこれほどよくしてもらっているのに、それ以上何を望むというのだ。周に対する恋心とて、冰の一方的な想いであって、そんなことで周囲に心配を掛けるのは筋違いといえる。仮にし周に恋人がいたとしても、それに対してどうこう言える立場では決してないのだ。  周があまりにもよくしてくれるから、つい勘違いをしてしまいがちだが、冰は自らの立場というものを今一度わきまえなければと反省の思いでいた。 「いつまでも心配掛けてちゃいけない。白龍が帰って来たら元気に迎えてあげなきゃ!」  いつか周から『俺の大事な女性だ』と言って恋人を紹介される日がくるかも知れない。その時に困惑しないよう、一緒に幸せを願ってあげられるよう、気をしっかり持たなければならない。 「はぁー、俺が女だったらなぁ」  もしも女性だったなら、想いを打ち明けられただろうか。 「や、それはそれでムリだったかも」  例え女性だったとしても、そんな勇気はないだろう。それどころか、玉の輿を狙っているようで、逆に打ち明けづらいと感じるかも知れない。どちらにせよ、恋慕心など抱く自体がやはりお門違いなのだろう。 「そうは言ってもなぁ。あんなにカッコいいし、同性の俺から見てもドキドキするくらい男前だもんな。それなのにめちゃくちゃやさしいし――」  とはいえ、冰がそう感じているだけで、実際の周は誰に対しても”めちゃくちゃやさしい”わけではない。冰や側近などのごく近しい者たちの前では穏やかな顔しか見せないが、外に対してすべてそうであるかといえば、大概は逆である。  一企業の経営者として厳しい面もむろんのこと持ち合わせているし、それに何といっても彼はマフィア頭領の倅でもある。当然、裏社会での顔はまた違ったものになるのだろう。冰が気付かないだけ――というよりも、冰の前では極力そういった面を見せないようにしているだけなのだ。 「ウジウジ考えたって仕方ねっか……」  冰がどう思おうと、周に大切に想う女性がいればどうにもならないし、もっといえば、いつかは彼も結婚する時がくるのだろう。その時に動揺しないで祝福してあげなければならないのは当然だ。家族も同然だとまで言ってくれている周だ。そんな時には誰よりも一緒に喜んで欲しいと思うことだろう。冰は心をしっかり持たなければと強く決意するのだった。 ◇    ◇    ◇

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