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周焔編(氷川編)35

 昼食を済ませると冰は社屋へと戻った。周と李は出掛けているし、明日からは週末の連休だ。社長室の隣の部屋で留守を預かっていた劉からも、特に雑務もないので午後は上がっていいと言われたのだが、部屋に帰ったところでやることもない。ちょうどいい機会だし、冰は社内を見てみたくなって、ふらりと巡ることにした。  周の秘書となってこのかた、殆どは社長室で過ごすか外出するかのどちらかだったので、社内を見て回ることなどなかったのだ。この大きなビルの中全体が周の統治する企業が入っているらしく、もちろん子会社などの系列もあるようだが、他社のテナントなどはないと聞いている。これだけの巨大ビルの中で他の社員たちがどのような仕事をしているのか興味が湧いていたのだ。  吹き抜けのロビーを見渡せる社屋の最上階からエスカレーターで一階ずつ降ってみる。全面ガラス張りで仕切られたような近代的な造りの階や、間仕切りのなく部屋全体が見渡せるような階、それとは対照的に内部の様子が分からないように壁で覆われた階など様々だが、どこの部署も洒落た建築の格好いいオフィスという印象だった。  各部署を行き交う社員たちも何となく洗練されているような雰囲気で、仕事に誇りを持っているのか”デキる”人々といった感じである。冰は軽いカルチャーショックを受けながらも、もしも自分が一社員としてここに就職していたとしたら、正直なところ務まっただろうかという気にさせられてしまった。  やはり自分はこれ以上ない待遇を与えられているのだ。周への独りよがりの想いや、彼の恋人への焼きもちなど、甚だお門違いだというのを痛感させられる思いだった。 「やっぱ俺、めちゃくちゃ我が侭なこと考えてたんだよな……。ほんと、マジでわきまえなきゃいけないや。白龍の秘書なんてすごい役職与えてもらって、あんな豪華な部屋に住まわせてもらってるだけでもとんでもないってのに、反省しなきゃ――」  苦笑しつつも気を引き締めなければと改めて思う。そろそろ戻ろうかと歩き出した時だった。 「ねえ、あなた! ちょっと待って」  後方から呼び止められて、冰は声の主を振り返った。 「……あ!」  そこには見覚えのある女性の姿があった。向こうもこんなところで会った偶然に驚いているといった表情でいる。なんと彼女は、初めて周を訪ねた日に出会った受付嬢の女だったのだ。 「あんた、確か……」 「……まさかこんなところで会うなんてね」  女の方は少々バツが悪いわけか、おずおずとしながらも近寄って来た。

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