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周焔編(氷川編)37
「な、あのさ。ひとつ訊いてもいいか?」
「ん? なぁに?」
今まですっかり忘れていたが、冰は彼女に会ったことで疑問に思っていたことを思い出したのだ。
「悪い意味じゃ全然ねえから、気を悪くしないで聞いてくれる?」
「うん」
何かしら? といったように彼女が首を傾げる。
「実はさ、初めて俺がこの会社を訪ねた時、あんた最初からちょっと冷てえなって思ってたんだ。俺ら、会うのはあの時が初めてだったろ? だからどうしてかなって不思議だったんだ。俺、どっか勘に障るところがあったのかなって」
それは正直な疑問だった。確かにもう一人の受付嬢は普通に客に対する応対をしてくれようとしていたが、今ここにいる彼女は最初から敵意剥き出しといった調子だったからだ。
冰が問うと、彼女は苦笑気味ながらも正直にその理由を答えてくれた。
「そう、やっぱり冷たいって分かった?」
「まあ……ね。俺、なんかマズいことしちまったのかーってさ」
「ん、そうじゃないんだけどね。あの時も言ったかもだけど、ちょっとしつこいっていうか図々しいお客がいてね。その人、ホストだったんだけど、何度か訪ねて来てたの。アタシたちがいた受付に社長の予定を教えてくれって言ってきたこともあるけど、会社の前で社長が出てくるのを待ち伏せしてたりすることもあってね」
「……そうだったんだ」
「それだけならまだしつこい営業だなって、よく言えば熱心といえなくもなかったんだけど。噂だけどその人、どうも社長個人のことを気に入っているっていうか……社長のことが好きだったみたいなの」
「好きって……。だってホストっていうんなら男……なんだろ?」
「バカね! 今時、好きになるのに男も女もないわよ。男同士や女同士で付き合うのが珍しい時代じゃないし」
「……そっか。そりゃまあ、そうだ……よな?」
「まあ好きになるのは自由だから、それはいいとして。その人の場合はちょっと常軌を逸してるっていうか、ほんっとにしつこかったのよ。あの李さんが直接断っても全然動じなくて。それに、その人の格好も態度もいつもチャラチャラしてて、しまいには見てて腹が立ってきちゃったのよ。そりゃ、顔はまあイケメンだったけど態度がね。社長を好きなのはお金持ちでもあるからっていうのが見え見えだったし。もしも社長が一文なしなら、きっと鼻も引っ掛けなかったと思う。そんなのが社長に釣り合うわけないじゃんって思ったの」
興奮気味に彼女は語った。
「そっか。それで……俺がそのホストさんに似てたとか?」
「今考えたら全然似てない! あなたの方が俄然ハンサムだけど、あの時はパッと見ちょっと似てるかなって思っちゃって。またどこかの店で会った新たな虫が湧いて出たのかーって」
虫って――そこまでけなしたら気の毒だろうと思ったが、それは胸の内だけに留めて彼女の言い分の続きを待つ。
「受付嬢って会社の顔じゃない? だったらアタシがここで退治しなきゃとか、ヘンな正義感が湧いちゃって……」
今考えたらアタシ自身がヘンな奴そのものだったわよねと言って彼女は苦笑した。そして、冰にとっては少々ドキっとさせられるようなことも言ってのけた。
「実はさ、アタシも社長のこと……好きだったのよね」
――――!?
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