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周焔編(氷川編)42

「これって……宝石だよね。水晶かなにか……?」  小指の爪ほどもある大きさだ。仮にもダイヤだとは思えないが、輝きは半端ではない。冰はおそるおそる周を見上げながら訊いた。 「白い方のはダイヤモンドだな」 「……ええッ!?」  宝石などに疎い男の冰でも、それがどれほど高価なのだろうと想像するのもおそろしいくらいだ。だが、周は平然としたように先を続けた。 「ストラップってのは普段使いするもんだろうが。すぐに割れちまったんじゃ意味がねえ。その点、ダイヤは硬度があるからな」  だから普段使いにはもってこいだというわけなのか――一般庶民として育った冰からすれば、驚く以前に発想からして異次元だ。 「赤いのは――まあ、ダイヤほど硬度はねえだろうが、ガーネットという宝石だ」 「ガーネット?」  冰にはあまり耳慣れない名前だった。赤い宝石といえば、すぐに思い浮かぶのはルビーくらいである。 「今回は硬度よりも色味で選んだからな。パイロープガーネットという種類のやつらしい」 「パイロープガーネット……」  二つの組紐を見つめながら、冰はハッと何かに思い当たったようにして瞳を見開いた。 「これ、もしかして……俺と白龍の……」  そう、名前にちなんだものではないかと思ったのだ。  以前、ケーキを選んだ際に周が言っていた言葉を思い出す。 『俺らの名前にピッタリだな』  あの時、冰はホワイトチョコレートでできた真っ白なケーキを、周は紅いベリーのムースケーキを頼んでいた。その時は偶然だったのだが、雪吹冰という”白”をイメージさせる名前と、周焔の”赤”をイメージさせる色のケーキを選んだことで、周が自分たちの名前のようだと言ったのだ。それを覚えていて、わざわざこうして揃いのストラップを作ってくれたというわけか。  冰はあまりの感激に、思わず胸が締めつけられたように苦しくなり、今にも涙が滲み出してしまいそうだった。 「白龍……あの、これ……」 「ああ。俺とお前と揃いで使おうと思ってな」 「お揃い……って、ホントに俺がもらっても……いいの?」 「ああ。その為に作ったんだ。スマートフォンのカバーに付けるのにちょうどいいだろうが」  周はそう言って、自分用の赤い方の組紐を冰の掌から取ろうと指を伸ばした。白い方には純白の中に降りしきる”雪吹”をイメージして薄灰色の糸を交ぜて組み込んでもらったのも、名前にちなんでと思ってのことだ。  だが冰は、伸ばされた指を咄嗟に掴むと、周にとってはひどく驚くようなことを口にした。 「待って白龍! あの、あの……さ。俺がこっちを貰ってい……?」  冰が取り上げたのは赤いストラップの方だった。 「我が侭言ってごめん。でも俺――こっちがいい……んだ。だって、だってさ……。これ持ってたら、いっつも白龍と一緒って思えるし」  うつむき、小さな声で頬を朱に染めながら弱々と呟いた冰を見つめながら、周は驚きに一瞬硬直させられてしまったほどだった。

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