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周焔編(氷川編)41

 そうして初めての八ッ橋の味を堪能した冰は、お茶が済むとそのまま周の部屋に寄るようにと言われた。彼の私室はダイニングとは扉一枚で繋がっている隣だし、これまでにもチラりと覗き見ることはあったのだが、こうしてじっくりと訪れるのは初めてだった。 「うわ……何、この部屋……。すげえ……!」  あまりの驚きに、冰はポカンと口を開けたまましばし唖然とさせられてしまったほどだ。というのも、周の部屋は洋室である冰の部屋やダイニングとは違って、中華風に造られていたからだった。装飾もまさに極細、まるで今にもいにしえの皇帝が現れるのではないかと思えるような雰囲気なのだ。 「もしかしてお前がこっちに来るのは初めてだったか?」 「……そう……だけど。だっていつもダイニングで会えてたし……」  それに、周の私室だ。いかによくしてもらっているとはいえ、勝手に出入りするなど到底できるものではないと思っていたからだ。  だが周は、さも当然といったようにこう付け加えた。 「こっちの装飾が気に入ったんなら、いつでも好きに使って構わねえぞ」  スーツの上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめながら平然と言う。 「あ、ありがと……。でも俺の部屋の……洋室の方もめちゃくちゃ気に入ってるから大丈夫……」 「そう遠慮することはねえ。俺はいつでも大歓迎だ」 「あ、うん……。じゃあ、たまに……来させてもらおうかな」  モジモジとしながらうつむき加減で頬を染めた冰を横目に、周は脱いだ上着の胸ポケットにしまってあった物を取り出すと、それを冰の掌に乗せるように差し出した。 「ほら。もうひとつ土産だ」  それは小さな和紙の包みだった。手漉きのようで、雅やかな和の模様が施されている。 「お土産って、俺に?」 「ああ。開けてみろ」 「うん」  中身は何なのだろう――周が和菓子の他にわざわざ買って来てくれたらしいその包みを、冰はドキドキとしながら開いたのだった。 「――あ……!」  それは絹紐で出来たストラップのようなものだった。十センチほどの紐の先端には宝石だろうか、キラキラと光る小さな石が括り付けられてある。しかもそれは二本あって、デザインは同じで色違いのものだった。 「これ、もしかして宝石? 紐も、こんなの見たことない。すげえきれい……」  冰が珍しそうに眺めている側で、周が言った。 「組紐というやつだ。京都の馴染みの店でな、前々から依頼してあったんだが、ちょうど出来上がったと連絡をもらっていたんで受け取ってきた」  よくよく見ると、ひとつは真っ白な中にところどころチラホラと淡い灰色が混じっているように組んである。その白をベースにした紐の先には小指の爪ほどの大きさの透明な石がコロンと取り付けられている。カッティングのせいか、光に当てるとキラキラと輝いて、素人目にも宝石だと分かるような代物だった。  もうひとつは、形は白い紐と同じだが、色は赤を基調としていて、先端には深い紅色をした透明度のある石が取り付けられてあった。

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