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告げられないほどに深い愛9

(げん)さんにも要らぬ手間掛けてすまねえと思ってはいるが……。だいたい――来る見合いの話といったら大概は裏の世界の組関係だ。俺自身には会ったことも見たこともねえって奴らもいるだろうによ」  半ば呆れ気味で溜め息をつく鐘崎を横目にしながら、周もまたつられたように苦笑する。 「要はお前んところの組織と繋がりを持ちてえってんだろ? 親の思惑はさておき、相手の娘にとってみりゃ、お前さんを一目見ただけで気に入っちまうんじゃねえか?」 「――実際、それの方が面倒だ」 「おいおい、言い草だな」  周が笑う。 「前に何度かそういうことがあったんだ。たまたま仕事を請け負った先の組に出向いた時だ。そこの娘が俺を気に入ったとかなんとかで、縁組みを前提に付き合わねえかってしつこく誘われてな。それこそ断るのに苦労したもんだ」 「相手の女が好みじゃなかったってわけか?」 「……俺にゃ女の好みなんてもんは元々ねえさ。そもそも結婚自体するつもりはねえしな」 「まあ――そうだろうがな」  原因は言わずもがなだ。鐘崎が以前から一之宮紫月に惚れ込んでいるのを周も知っているからだ。 「だったら早えとこ一之宮の野郎に打ち明けちまえばいいものを。何だってそう悠長にしていやがる」  他人様の恋路に口を出すつもりはないが、それにしても呆れるほど一途に想っているくせに――と、つい節介を焼きたくもなる。 「俺から見りゃ、お前ら二人は相思相愛だと思うがな」  肩をすくめる勢いで呆れ気味にそう言われて、鐘崎の方も苦笑させられてしまった。 「――さぁ、どうだかな。紫月のヤツからそんなことは聞いたことがねえ」 「そりゃ、お前が()わねえからだろ? 一之宮もああ見えて案外健気なところがあるのかも知れねえぜ。お前さんから告げてくれるのを待ってるんじゃねえのか?」 「正直なところ俺には分かんねえ……。これでも俺はヤツに惚れてるって――常日頃態度に出しているつもりだがな」  軽いスキンシップはしょっちゅうだし、時には抱き締めたりもするが、紫月の方は拒まずとも、一向に応えるつもりがあるのかないのかよく分からないのだと鐘崎は言った。 「――ったく! 焦れってえったらこの上ねえな。ンなもん、ガッと組み敷いちまえば事足りるだろうによ」 「他人事(ひとごと)だと思って適当なこと抜かしてんじゃねえ。そういうてめえはどうなんだ。見たところ女の一人もいねえようだが――?」 「俺は単に女に構ってる時間がねえだけだ。今は社のことで手一杯だからな」  確かに周は生まれ育ったファミリーの元を離れ、一人この日本で起業し一企業を築いている男だ。彼曰く、立ち上げる際には父親から元手を助力してもらったそうだが、それもわずか三年かそこらですべて返済したという。ここからが恩返しの本番なのだと、今は社を大きくすることで手一杯なのだろう。

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