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告げられないほどに深い愛13
視線の先には空になったコーヒーカップと食べ終えたケーキの銀紙が何ともいえない虚しさを連れてくる。
静かになってしまった部屋とは裏腹に、今度はザワザワと気持ちが騒ぎ出す感覚に、気重な溜め息がとまらない。
「はぁ、見合い……かぁ。あんなこと言ってっけど、いつかはあの野郎も結婚する時がくんだろうな……」
あの逞しい腕で幼子を軽々と抱き上げながら、その隣でやさしく微笑む華奢で可愛い女房を愛しげに見つめる姿を想像してしまう。
「親父さんが僚一 で、あいつが遼二 だろ。ガキは暸三 とかいったりしたら……笑える……」
”リョウ”の字が若干違うだけで、一、二とくれば次は三だろう。独りごちてウケながらも、気持ちはひどく重くて仕方ない。
「……嫁に来いとか……例え冗談でもえげつねえっつの。俺が嫁いでいけるわきゃねえってのによ」
自分は姐にはなれないし、”暸三”を産めるわけでもない。できることはただ側で彼が幸せな家庭を築いて組を繁栄させていく姿を眺めるくらいだ。
「……は! ンなの、めちゃくちゃ酷じゃんなぁ」
想像しただけで無意識にこぼれそうになった涙を袖先で力一杯拭う。真冬の夜の静けさが、弱った心を更に凍てつかせるようだった。
◇ ◇ ◇
それから数日が過ぎたクリスマスイヴの日――。
夕方になると約束の三段ケーキを持って鐘崎が一之宮道場へとやって来た。
あれ以来、特には連絡も取り合っていなかったが、彼は普段と何ら変わらないように見えたことが紫月にとってはホッとさせられるといったところだ。今日は父親の飛燕と綾乃木も一緒なので、それほど気を遣うことなく案外普通に会話も進むことが何よりだった。
「ほら、お待ちかねのケーキだ」
開けてみろと軽く顎をしゃくられて、紫月は素直にリボンを解いた。
「うわ! すげえ……」
箱からして何が入っているのかというくらい立派だったが、中身も想像以上に見事なデコレーションで思わず目を見張らされる。飛燕も綾乃木も感嘆の声を上げてしまったほどだった。
「おいおい、またえらく気張ったもんだな」
「こりゃクリスマスケーキってよりは結婚披露宴のウェディングケーキくらい立派じゃねえか!」
確かにその通りである。一般的な核家族の家庭で食べるにしては度を超した豪華さだ。先日聞いていた通りのバニラと苺とカカオの三段重ねは、見るからに美味しそうだった。
「うわぁ……食っちまうの勿体ねえ……」
でも食べたい――と、顔にはそう書いてある。そんな紫月の様子を黙って見ている鐘崎の視線は穏やかで、やさしさにあふれるといった感じである。むろん本人は気が付いていないのだろうが、側で見ていた綾乃木などは、思わずつられて口元がゆるんでしまいそうだった。
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