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告げられないほどに深い愛15
「今日はクリスマスなんだ。てめえも食うだろ?」
皿に取り分けながら紫月が訊くと、鐘崎はわずか苦笑ながらも素直にうなずいてみせた。
「まあ、少しならな」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、小さめのやつにしといちゃる」
「いや――お前のを一口くれりゃそれでいい」
「はぁ? ンな、せけえこと言ってねえで、ちゃんと食えば」――いいじゃん、と言う間もなく、鐘崎は紫月の手を掴み寄せると、言葉通りに彼のフォークから”一口”を自らの口へと放り込んでしまった。
「――ッ、まあ、思ったほど甘くはねえな」
そう言いつつも、決して美味しいという表情ではない。複雑なその顔に思わず笑いを誘われて、紫月はプッと噴き出してしまった。
「はは! おっかしいー! マジで甘いモンは苦手なんだな!」
「んなに笑うこたぁねえだろが」
「だってさぁ、お前のそのツラ!」
二人のくだらない言い合いに飛燕と綾乃木も同時に笑いを誘われて、賑やかな食卓に花が咲く。始めの内は何かとぎこちなかった鐘崎と紫月の二人にも、いつも通りの空気が戻り、たわいのない会話で盛り上がっていった。
そうしてケーキに舌鼓を打った後はいよいよメインの料理の出番だ。
「いつもは外で買って来るんだが、今年は紫月がチキンを焼いたんだぜ?」
綾乃木が得意げにそう説明する。鐘崎も参加できるということで、出来合いのチキンではなく材料から紫月が調理したのだという。チキンだけではなく、スープにサラダ、副菜までと種類も豊富で、盛り付けも美しい。炊きたての白米もふっくらとしていて実に美味しそうだ。
きっと朝早くから買い出しに走り、これだけ多種多様に準備するのは想像以上にたいへんだったことだろう。鐘崎は一生懸命に動き回る紫月の姿を脳裏に描きながら、そこはかとなく愛しげに瞳を細めたのだった。そして、『遠慮なく』と言ってそれらを大事そうに口に運ぶと、
「旨いな」
ただひと言、そう言って、続け様に箸をつけていった。短過ぎるほどの褒め言葉ではあるが、心からそう思っているというのが彼の表情から見てとれる。目の前の料理を見つめる眼差しが幸せだと物語っている。綾乃木などはそんな様子を嬉しそうにうなずきながら眺めるのだった。
「味付けも最高だ。どれも本当に旨いぜ。紫月、お前はいい……」
いい嫁になるなと言おうとして、一瞬言葉を止め、
「いい腕してるぜ。俺も今年は時間が取れて良かった。こんな旨いメシにありつけたんだからな」
そう言い換えた鐘崎だった。
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