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告げられないほどに深い愛17

 事件が起こったのはその数日後――年の瀬も押し迫った師走二十八日、晩のことだった。  既に道場も締めていて、紫月らは割合長い年末年始の休日に入り、ゆったりとした時を過ごしていた。綾乃木は京都にある実家へと帰っていき、戻るのは年明けの三が日過ぎの予定である。久しぶりに親子水入らずという飛燕と紫月だが、普段から母屋と離れに住んでいるので、取り立てて変わりはない。いつもの暮れだった。  飛燕は夕方から武道会の寄り合いがあるとのことで、出掛けることが決まっていた。 「それじゃ行ってくる。晩飯を一緒にできなくて悪いが――」 「ああ、いいよそんなん。適当にやってる」 「帰りは多分夜半過ぎだ。戸締まりを忘れるなよ」 「分かってるって! ガキじゃねんだ」  いつまでも子供扱いが抜けない様子に、紫月は苦笑しながらも一緒に門まで出て行って父親を見送った。毎年暮れにはこの寄り合いがあるのは恒例なのだが、酒豪が多いので帰って来るのはいつも深夜なのだ。ヘタをすると丑三つ時ということもある。 「ま、たまにゃ一人も気楽ってもんだろ。つか、寒ッ!」  部屋着のままで出てきたので、師走の夜はさすがに寒い。紫月は急ぎ戻ると、暖房の効いた部屋ですることもなく、スマートフォンを手に取った。 「あの野郎、どうしてっかな……」  頭に浮かぶのは当然鐘崎のことである。彼は依頼がある時は盆も正月もなくといったところだが、逆に暇な時はとことん暇である。先日のクリスマスも時間ができたということだったし、案外今は暇なのかも知れない。 「電話してみっかな――」  一度はそう思ったが、仮に仕事中だったらと思い直して、今夜はやめておくことにする。 「風呂でも入るかぁ。そんでもって、撮り貯めておいた録画でも観よ!」  することがないくらいゆっくりできるのもこの時期ならではである。たまには思い切りダラダラするのも悪くない――そんな暢気な気分でいた紫月を焦燥感が襲ったのは、それから三時間ほどが経った頃だった。  スペシャル版のドラマを一本観終えて、ベッドに寝転がりながらウトウトとしかかっていたその時――突如鳴り響いた地下室のベルの音を聞いて、紫月は慌てて飛び起きた。  地下へと向かいざまにスマートフォンの時刻を見れば、午後の九時を回ったところだった。言わずもがな、このベル音が鳴るということは、鐘崎の組でまた怪我人か病人が出たということだ。しかも事前の電話連絡がないということは、おそらく今回も急を要する事態であるのは確かだろう。焦燥感をあらわに駆け付けると、そこには案の定か――見知った男二人が青ざめた表情で息を切らして待っていた。  一人は先日負った刺し傷が治癒へと向かっている最中の(たちばな)と、もう一人は鐘崎の組で幹部を張っている清水(しみず)という男だった。

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