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告げられないほどに深い愛23

「な、何なんだ貴様は……」 「お嬢さんのこの痣はあんたがつけたんだろ? 遼二を陥れる為とはいえ、よく自分の娘にそこまでできたもんだな」 「何だとッ! よくもそんなデタラメを……! これは鐘崎がやったって言ってるだろうが!」 「いや、違う。あいつは女子供相手に手を上げたりはしねえ。仮にし――のっぴきならねえ事情で手を上げざるを得ない状況だったとしても、遼二は女を利き手で殴るようなことは絶対にしねえ奴だ。誰よりもそれは俺がよく知ってる」 「利き手……だと?」  言われている意味が分からずに、道内は険しく眉間を寄せた。  娘の青痣は両頬にある。しかも、切れている唇は左の端で、何か固めの金属のようなもので引っ掻いたような痕がハッキリと残っているのだ。おそらくは指輪か何かの痕だろう。ゴツめの指輪をした手で引っ叩いたか殴ったかされたと思われる。  遼二は左利きだ。そしてどちらの手にも指輪はしていない。  左利きの彼が咄嗟に――利き手とは逆の右手で――振り払ったとするなら、金属で引っ掻いたような痕がつくはずがないのだ。 「組長さん、あんたのその指輪――だいぶゴツいな。それで思いっきりお嬢さんを叩いたってか?」  道内はバツの悪そうに舌打ちながらも、自らの手を背広のポケットの中へと突っ込んで隠した。そんな様子を冷めた目で見やりながら、紫月は道内が連れて来た組員らに向かって言った。 「おい、あんたら――このお嬢さんを車にお連れしろ。いつまで晒し者にしてんじゃねえよ」  一瞬、場が静寂に包まれる。言われてみれば確かに組長の娘に裸同然の破廉恥な格好をさせて、双方男しかいない極道の組事務所に連れて来るなど常軌を逸している。紫月の言葉を受けて、誰もが苦虫を噛み潰したような表情で互いを見合わせる。  すると、道内の組員の一人が紫月の前へと歩み出て、深々と丁寧に頭を下げた。 「お言葉、痛み入ります。さ、お嬢さん、とにかく行きましょう」  長身で端正な顔付きをしたその男は、組長の一番側に立っていたところを見ると、道内組の中でも幹部クラスなのだろう。他の舎弟たちも彼がそう言うならと、歯向かう素振りは見られない。唯一それを静止しようとしたのは道内本人だった。 「おい、こら! 春日野! 勝手なことしてんじゃねえ!」  すかさず娘の腕を引っ張ってソファへと座り直させる。 「組長、もうやめましょう。こちらさんのおっしゃる通りだ。お嬢さんにも気の毒ってもんです」 「ンだと、ゴルァ! 出しゃばったマネすんじゃねえ!」  道内は泥を塗られたとばかりに立ち上がってテーブルを蹴り飛ばした。

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