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鐘崎編27

「ごめんな、遼。ホントはさ、すぐにもお前を迎えに行きたかった……。けど、氷川が向かってくれてたし……今は事務所を守るのが先だって……思っちまって」 「ああ。ああ、それでいい。親父も俺も不在なら組を見るのは姐さんしかいねえ――」 「あ……姐さん……って」 「嫁いで来いと言ったろう? 俺が姐さんにしてえと思うのは――どこの組の娘でもねえ。この世でお前ただ一人だ」 「りょ……ッ、えと……その……あれは冗談かと思って……その……」 「俺に冗談が言えるようなユーモアがあると思うか? ンなの、お前が一番よく知ってんだろう……が」 「……ッ、そりゃ……そ、だけど」 「俺が悪かった――。お前に惚れてると……ちゃんと分かるように告げれば良かった。だができなかった――。万が一にもお前を失ったらと思うと――いっつも最後のところで躊躇っちまった。どうとでも受け取れる曖昧な伝え方しかできねえで、いつもどこかに逃げ道作って、どうしてもお前を離したくなかった……! 例え振られても……あれは冗談だったと言って、変わらずにお前の側にいられればいい、そんなふうに思ってた。どうしょうもねえ意気地なしだ、俺は」 「……遼……」 「情けねえと思うぜ……。たった一人、惚れて惚れて惚れ抜いた相手に気持ちを伝えられもしねえ……。振られんのが怖くて……お前とギクシャクしちまうくれえなら……いつまでも今のままでいい、そう思ってた。そのくせいつかは手に入れる……なんて格好ばかりつけて強がって……極道なんざ名ばかりの臆病モンだ」  抱き締めている体勢のせいなのか、はたまた薬が抜け切れていないせいか、くぐもった声が必死に告げてくる。消え入りそうな声音にいつもの自信や圧はなく、一世一代決死の告白とでもいうような言葉が耳元で震えていた。 「だが、さっき氷川んところへ向かう途中で思った。もしも道内の組の奴らが追って来て、とっ捕まって……最悪はくたばっちまったとしたらどうだろうって。お前に気持ちを伝えられねえまんま後悔すんなら死んだって死に切れねえ。もしも無事に帰れたなら、今度こそ伝える。振られようが二度と口を聞いてくれなかろうが構わねえ。とにかく俺の気持ちだけははっきりと伝える! そう決めて、お前の顔だけを思い描きながら歩いたぜ」  今はとにかく前に進む。一歩でも二歩でも追手から遠ざかり、愛する者の温もりを目指して前に進むことだけを考える。鐘崎はただそれだけを思って必死に歩いたのだった。

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