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告げられないほどに深い愛37
そして春節が過ぎ、頃は春の訪れを待つ二月の下旬――。
鐘崎と紫月の披露目の宴は都内にある老舗のホテルで執り行われた。そこは周の社屋の近くであり、紫月が好きなケーキを置いている例のラウンジが入っているホテルでもあった。
入籍や結婚という形ではない為、披露目の席には両家の親族をはじめ、鐘崎組の組員たちというごく近しい者で行われることとなったわけだが、それでも香港からは周ファミリー、そして台湾やインドネシアなどで僚一と付き合いの深いマフィアたちも招かれ、錚々たる顔ぶれが揃って盛大な披露宴と相成った。
周ファミリーは荘厳な装飾の施された中華服で訪れてくれて、長の周隼 はむろんのことながら、姐――つまりは周の継母――の美しさには周囲から溜め息が上がり、注目の的となっていた。
周の実母の氷川あゆみも祝いの席に相応しい和服姿で駆け付けてくれた。
ファミリーの意向もあって、あゆみも彼らと同卓に着き、継母と二人親友のように肩を並べて祝ってくれることとなった。周の腹違いの兄である風黒龍 は婚約者の高美紅 を伴って参列し、こちらもまた美男美女のカップルで人目を惹いていた。
「うはぁ……氷川の母ちゃんたちも兄貴の嫁さんも皆めちゃめちゃ美人で、これじゃ主役が霞むってもんだな!」
控え室では紫月がおどけながらもファミリーに見とれている。
「おい、紫月……。まさか今になってやっぱり女がいいなんて言ってくれるなよ?」
鐘崎の方は半ば本気で心配そうな顔つきでいるのに、周囲からはドッと笑いが湧き起こる。
そんな二人も立派な黒の紋付袴に身を包み、双方共に普段以上に男前を上げているといったところだ。
「心配すんなって! 俺にとっちゃ世界中のどんなイイ女よかお前が一番なんだからさ! つか、お前こそ目移りしてんじゃねえぞー!」
真っ向素直に言ってのけたその一言で、鐘崎の機嫌も上々のようだ。
「そうか。良かった。安心したぜ?」
チュっと髪に軽い口付けを落とすと、周の母親たちは黄色い声を上げてキャアキャアとはしゃいで喜び合っていた。女二人、まさに親友といえる仲の良さだ。そんな彼女らを横目にしながら、周もまた、別の意味での幸せをも感じるのだった。
主賓の挨拶は周の父である隼が重々しくも厳かな祝辞の言葉を述べてくれた。しかも、最初から最後まで流暢といえるくらいの日本語で祝ってくれたことには大層驚かされつつも、鐘崎も紫月も、そして両家の者たちは感動の思いで香港の大物からの祝辞を賜ったのだった。
友人代表はもちろんのこと、周である。彼もまた厳かな中にも学生時代からの二人の様子などをユーモアも交えて会場の笑いを誘うなど、記憶に残る素晴らしい祝いの言葉を贈ってくれたのだった。
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