104 / 1208

香港蜜月1

「――っていうのが俺と遼二が今みてえになった経緯! まあ、こうして思い返してみるとさ、ここまで辿り着くのに色々あったなぁって、ちょっと懐かしかったりして」  一之宮紫月が力説して聞かせているのは、彼と彼の恋人の鐘崎遼二がどのようにして恋仲に漕ぎ着けたかという経緯だ。大きなソファベッドに寝転がっては、お気に入りの甘い菓子類を頬張りながら懐かしそうに話す。 「そっかぁ。鐘崎さんと紫月さんのエピソードって、なんだかすごくドラマチックですよね!」 「へへ、そうかなぁ?」 「お二人は元々幼馴染みだったんですよね? 長い間ずーっと想い合ってたっていうのもホントすごいです! 憧れちゃいますよ」  対面のソファでお茶をすすりながら相槌を打っているのは雪吹冰だ。香港へ向かうプライベートジェットの中でのことである。  鐘崎と紫月が生涯の伴侶として誓い合ってから二年余りが経った今、二人の親友である周焔にも唯一無二といえる相手ができて、念願のダブルデートが叶うようになったのである。 「そういう冰君たちだって充分ドラマチックだと思うけどな。初めて氷川と出会ったのって、冰君がまだ子供の頃だったんだろ?」 「はい。確か八歳か九歳だったと思います。あの時の白龍はもうすごく大人に見えて、最初はめちゃめちゃ怖いお兄ちゃんだなって印象だったのをよく覚えてます」  冰もまた照れ臭そうに笑った。 「でも話してみるとすごくやさしかったんです。でっかい背を丸めて、俺の目の前で屈んでくれて、子供の俺を怖がらせないようにってすごく気を遣ってくれているのが分かって……このお兄ちゃんになら何でも話せる、っていうか話しても大丈夫なんだなって安心したのも覚えてます」  ポッと頬を赤らめながら言う。そんな冰を紫月は可愛いなと思うのだった。 「そっかぁ。じゃあ冰君と氷川はまさに運命の相手だったんだろうな」 「……そ……うなんでしょうか。でも今こうして白龍と一緒に暮らせていることは本当に有り難いし、幸せだと思います」  モジモジと恥ずかしそうにする様子からも冰の性質の良さが感じられる。紫月は周との繋がりでこの冰と出会えたことを素直に嬉しく思うのだった。 「着陸まであと二時間くらいか。ちょっと仮眠でも取っとく?」 「そうですね。白龍たちはあっちの部屋で難しい話に花を咲かせているようですしね」  そうなのだ。紫月と冰の恋人である周焔と鐘崎遼二は、各々の家令の真田と源次郎と共に、先程から世情や経済についての話で盛り上がっている様子である。春節を機に香港にある周の実家へと向かう機中で、恋人たちは二組に分かれて寛いでいるといったところだった。いわば旦那組と姐組とでもいおうか、四人が集まると最近はもっぱらこの組み合わせでおしゃべりを楽しむことがお決まりとなっていた。

ともだちにシェアしよう!