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香港蜜月20
「ねえ……白龍、確か今日のイベントの為にカードやダイス、ルーレットのボールなんかを全て新しいものにチェンジしたって言ってたよね?」
「ああ、そうだが。毎年そうしていることだが――何か気になることがあるのか?」
「ボール……、そう……それだよ! 新しくしたルーレットのボールのサンプルってここにある? あったら見せてもらいたい」
先程、トランプの新しいカードを周が褒めていたのを思い出して、もしもボールやダイスもあるならば見せて欲しいという冰に、周はすぐさま父親へとそれを告げた。
「サンプルならこれだが――」
兄の風が新しいカードやボールのサンプルを持って来て手渡す。それを受け取った冰は、ボールを握ると、スマートフォンの方位磁石を起動させて近付けた。
「やっぱり……! わずかですが磁石が狂います。多分、このボールの中に微量ですが磁気が含まれているのかも……」
「磁気だと!?」
「どういうことだ」
周はむろんのこと、父も兄も、その場にいた一同は驚いたようにして顔を見合わせた。
「おそらく磁気を利用して狙ったところにボールを落とすように細工していると思われます。ルーレットでイカサマをする時に使われる方法のひとつです。賭けているお客さんの周囲に仲間がいるはず……」
冰の指摘に慌てて階下を見下ろすと、確かに怪しげに視線を交わし合う者たちが数人で帽子の男を取り囲んでいるようだった。
隼はすぐさま場内の賭けを休止させるように指示を出すと、緊急の対策を練ることとなった。
先ずはフロアの監視役である黒服とルーレットを担当していたディーラーを呼び寄せて、詳しい経緯を訊くことにする。
「それが本当におかしいんです……。お客様の賭けた箇所に……狙ったように確実にボールが落ちるんです。それも立て続けに! こんなことは初めてです……」
ディーラーは困惑も困惑、報告する声も震えて取り留めもない様子だ。冰は彼が持ち帰ってきたボールを見せてくれるように言うと、それを手にした感覚で、やはり磁気が含まれていることを確信した。
(やっぱり――! イカサマだ)
まだ黄老人が健在だった頃、聞き及んでいた話を思い出す。
『いいか、冰。今から教える技はよほどのことがない限り他人様の前で披露してはいけない。だが、覚えておいて損はない――というよりも、お前がもしも将来ディーラーとして生きていくなら知っておかなければならない。ただ、この技を使えるようになるには気の遠くなるような鍛錬が必要だ。そして、仮にし身に付けられたとしても人前で易々と行ってはならない』
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