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香港蜜月19
「確か育ての親御さんは黄大人 だったな。まだ私の父の代の頃だったが、大人 にはこの春節のイベントで腕を振るっていただいたことがあるぞ」
「……! じいちゃんが……そうだったんですか!」
「ああ。他の追随を許さないほどの素晴らしいディーラーだったと父に聞いたことがあるよ」
黄老人が周ファミリーのカジノに立ったことがあると聞いて、冰は感激の思いに打ち震えた。確かに老人は周家のことをよく知っているようだったが、そんな経緯があったことが嬉しくてならなかった。
そうして四人で和やかな食事と酒を楽しんでいた時だった。隼の友人だというモデルのレイ・ヒイラギが息子の倫周と共に少々険しい顔付きでファミリーの元へとやって来た。
「隼、ちょっと耳に入れておいた方がいいと思ってな。実は俺たちはルーレットのテーブルで遊ばせてもらっていたんだが、どうやらイカサマをやらかしている連中がいるようだぜ――」
レイの話を受けて、一気にファミリールーム内に緊張が走った。
「イカサマだと――!?」
すかさず隼が立ち上がってガラス張りの窓辺へと駈け寄り、階下を見渡す。ルーレットのテーブルを見やれば、確かにディーラーが頭をひねって困惑顔でいるのが視界に飛び込んできた。周囲の客も互いに顔を見合わせながら、どことなくザワついた雰囲気になっているのが分かる。
「テーブルの真ん中に陣取っている帽子を目深に被った男がいるだろう? どうもヤツが怪しい動きをしているようなんだ」
「怪しい動きというと?」
「ヤツが賭けるところに三度立て続けでドンピシャ玉がハマった。普通なら有り得ねえだろうが。賭けている金額的には大してデカくはねえんだが、もしかしたら試しているのかも知れねえ。何回か様子を見て上手く事が運ぶのを確認したところで、大きく賭けてくる可能性もあると思ってな」
レイはとにかくルーレットのテーブルを一旦とめた方がいいと思い、報告にやって来たのだそうだ。すると、案の定か、階下の黒服から少々焦ったような問い合わせが飛び込んで来た。
『只今ルーレットに法外と思える金額が賭けられまして……如何致しましょう』
レイの悪い予感が的中したようだ。
「やはり来やがったか――。隼、あれは絶対おかしい。承諾は待って一旦ゲームを休止し、テーブルを確認すべきだ」
焦燥感に駆られる中、鐘崎と紫月も逸ったようにしてファミリールームへと戻って来た。
「おい、ルーレットのテーブルで何か不正が起こっているようだ――」
鐘崎からもレイと同じ報告が成される。緊張感が走るルーム内で、冰はガラス張りの窓から階下の様子を見渡しながら言った。
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