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香港蜜月23

「源さん、日本の親父にも連絡を入れる。監視カメラの映像から帽子の男らの正体を突き止めるんだ」 「分かりました。ではすぐに」  源次郎は今でこそ現役を引退して家令としての役割を担っているものの、永きに渡り鐘崎の父親の右腕として活躍してきた精鋭だ。緊急時の対処法や諜報力などは群を抜いているプロ中のプロであるのは変わらない。目にもの見せる早さで作業へと向かった。 「とりあえず全ての賭けを中止する理由として、予定よりも少し早いが春節のイベントショーを突っ込むぞ! すぐに用意してくれ」  隼の指示で即刻ショータイムへと切り替えるべくスタッフたちが散り散りに準備へと取り掛かっていった。  春節のイベントでは、毎年レーザー光線を使ったアートショーや雑技団による舞台なども盛り込まれているので、先にそちらを決行して、その間に対策を練る時間を稼ごうというわけだ。 「ショータイムは引き延ばしても一時間がいいところだ。それ以上長引かせると、何かあったのかと他の客に感付かれる恐れがある。仕掛けてきているヤツらも変に思うだろう。ルーレットの他にも何か細工されているかも知れないし、早急に全てのチェックをしろ! 賭けの再開までにできる限りの対策を考える……!」  隼はディーラーを交代させてくれという冰の厚意に、息子である周にも今一度その意を確かめると、周もやらせてやってくれとうなずいた。 「では再開と同時にディーラーを冰に交代してもらうとして、周囲には警護を配置する」  兄の風が信頼の置ける側近たちを集めて、冰の警護に当たるようにと指示を出す。それを聞いて、周自らもその一員に加えてもらえるようにと申し出た。何かあった時にすぐ側で彼を守ってやりたいからだ。 「――だが、お前は面が割れている。今は香港を離れているとはいえ、知っているヤツが見ればすぐに我々の一族だとバレてしまうだろう」  相手側に警戒されて、イカサマの現場を押さえられなければ意味がない。 「ですが兄上……!」  周としてはどうあっても冰の側を離れたくはないというのも理解できる。 「だったら変装させればいい。ヘアメイクなら息子の倫周に任せろ! ヤツの手に掛かれば、別人に変えるのなんざ朝飯前だ」  皆の動向を窺っていたモデルのレイ・ヒイラギの言葉で、一同はハッとしたように彼を振り返った。 「それと同時に俺もルーレットのテーブルで賭けに参加する。例の帽子の男とはさっきまで同じテーブルで賭けていたんだ。ヤツも俺が参加していたことを覚えているだろうから、不自然には見えんだろう」  さすがに隼の友人というだけあってキレ者だ。レイの提案で、早速に息子の倫周がヘアメイクに取り掛かることになった。

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